ランド・フィッシュキン氏が語る「ウェブ検索2019」| MozCon2019レポート
Web担にて毎週月曜日に更新される「SEOとインバウンドマーケティングの実践情報 by Moz」でもおなじみ、SEO関連ソフトウェアを提供するMoz社。そのMoz社が主催し、米国シアトルで7/15~19に行われたカンファレンス「MozCon2019」で発表された最新のマーケティング関連トピックを今週より数回に渡りレポート形式にて紹介する。
第1回の今回は、Moz社ファウンダーで前CEO、そして現在はSparkToroのCEOをつとめるランド・フィッシュキン(Rand Fishkin)氏による「ウェブ検索の現在と未来展望」について前後編でお届けする。前編の今回は、次のテーマについて言及し、マーケターがそれらにどう向き合うべきかまとめる。
- 新しいテクノロジーとどう向き合うべきか
- Googleは近年、市場における寡占性を問題視されている
- Googleの検索結果上(SERP)のリッチ化によりゼロクリックが48%超という現実
音声検索、アプリ……ブラウザベースのウェブ利用はこれらに侵食されたのか
新しいテクノロジーの登場により、古いものは破壊される――。
これは、あたらしいメディア、テクノロジーの登場のたびに語られる言説だ。
ビデオ(動画)の登場でラジオは終わり、コンピュータの登場でテレビは終わり、モバイルの登場でデスクトップ利用は置き換えられ、アプリによってウェブ利用は駆逐され、音声検索によりスクリーンを介した検索は無くなる、ということを意味している。
しかし実際は、この40年間、ビデオ(動画)は成長を続けてきたが、それによってラジオが終焉を迎えるということはなかった。また、コンピュータ(PC)の登場によって、テレビが終わるどころか、よりさまざまな場所で見られるようになった。
アプリの登場によって、ウェブが駆逐されるどころか、この12年間、デスクトップ利用は若干減少したものの、ウェブサイトの利用べースはまだまだ巨大であり、(上位25のサービスを除いて)アプリよりもウェブサイトの利用は多い。音声検索においても、ウェブ検索は成長を続けている。
「新しいテクノロジーの登場により、古いものは破壊される」ということはよく語られるが、実際のデータからは、そのような事実は認められないのである。
未来の脅威に怯えるよりも、目の前の課題に注力すべきであるとランド氏は述べ、次の3つのポイントをまとめた。
- モバイルファーストは確かに大事だが、デスクトップを無視してはいけない。モバイルだけでなく、デスクトップの利用ベースはまだまだ大きい。
- 音声検索(ボイスサーチ)は、クエリのインプットのされ方が変わっただけで脅威にはならないが、音声検索の結果(ボイスアンサー)は違う。しかし、かつて言われた未来予測とは異なりウェブ検索が伸び続けている中、ボイスアンサーへ注力するのはまだ時期尚早だろう。別の戦術へ投資した方がより良いROIを出すはずだ。
- ウェブベースの動画施策、ポッドキャストやウェブ施策(オウンドメディアなど)は、引き続き優れた戦術領域だ。しかし、アプリはもはやそうではない。
国家・社会からのプレッシャーと最良の検索体験追求のはざまで腐心するGoogle
次にランド氏は、市場における近年のGoogle社の問題について話題を移した。
トラフィックソースとして抜きん出たGoogleは、近年、米国議会から市場における寡占性を問題視されるようになってきている。2020年に大統領選に出馬表明をしている民主党のエリザベス・ウォーレン(Elizabeth Warren)氏は、市場競争の観点から巨大ハイテク企業の分割を主張している一人だ。
議会からの追求
2018年12月、Google CEOのスンダ・ピチャイ(Sundar Pichai)氏は、米国議会の公聴会に呼ばれ、市場競争におけるGoogleの公正性についてさまざまな質問を受けている。
しかし、下記の質問については明確に回答を行わなかったという。
- Googleで検索を行い、検索結果に満足して検索を終わらせた人の割合は?
- 検索結果のリンクをクリックして、Googleがホスティングしていないページへ誘導された人の割合は?
- 検索結果のリンクをクリックして、Googleがホスティングしているページへ誘導された人の割合は?
この質問は、今のGoogle検索に対する態度を理解する本質的な問いかけであると、ランド氏は指摘し、ウェブブラウザ上のクリックストリーム分析を行うJumshot社との共同リサーチの結果を用いて、この問いに答えたのであった。
それが以下のスライドである。
- 検索結果に満足して検索を終わらせた人の割合は?=48.96%
- Googleがホスティングしていないページへ誘導された人の割合は?=41.45%(ここでは問いかけはオーガニックリスティングへの誘導率と判断)
- Googleがホスティングしているページ誘導された人の割合は?=6.01%
「検索結果に満足して、検索を終わらせた人の割合」つまり、ゼロクリックの割合は48.96%ということになる。
近年、ゼロクリックの割合は増加傾向にある。その理由はいくつか考えられるが、検索意図が明確なクエリでは、検索者のタスク(Searcher Task)が、検索結果上(SERP)で満たされることが挙げられるだろう。たとえば次のような検索体験がゼロクリックの最たる例だ。
- “今日の天気”と検索すると天気予報がアンサーボックス形式でビジュアルに表示される
- 歴史上の著名な人物名で検索するとその人物に関するさまざまな情報がナレッジグラフとして表示される
ロングテールワードよりも検索数の多い人気クエリでこの傾向は強く、対象クエリもどんどん広がっている。
最近では、FAQの構造化データマークアップもSERPでの表示が開始され、ダブルフィーチャードスニペット(強調スニペットの二段表示)もテストされており、SERP自体がますますリッチになってきている。
ちなみにモバイル版Googleでは、ゼロクリックの傾向はさらに顕著である。
Googleがホスティングするページとは、Googleおよび親会社Alphabet(アルファベット)が運営する関連サービスのことを指す。各種ユニバーサル検索(画像、ニュース、動画等)およびYouTubeやBlogger、更に親会社のアルファベット社の新規事業が含まれている。これをここでは「Alphabetへの誘導率」と表現してカウントしている。その誘導率は6%を越えており、広告よりも大きい数値(3.58%)であることを考えると、無視できない影響力を持つセグメントと言えるだろう。
さらにランド氏は続ける。
直近約3年で、オーガニック検索のクリック率は約20%下がった。上図のチャートを見れば、オーガニッククリックはゼロクリックよりもすでに少ないのだ(ただし、この減少分をGoogleモバイルアプリが埋め合わせしている可能性はある)。
先日Googleは、有料広告ラベルを「緑色から黒色」へデザイン変更をした。2019年6月の速報値では、変更前の4月と比べてクリック率が16%上昇したという。
米・金融情報サービス大手のブルームバーグによると、近年、Google広告の成長率は鈍化傾向にあると報道されている。実際に2016年の段階では、有料検索広告1クリックあたりの自然検索は26クリックあったが、2019年は11クリックと減少している。こういった事情がデザイン変更の背景にあるのかもしれないとランド氏は指摘する。
もっとも歴史を見れば、デザイン変更によって上がったクリック率は徐々に下がっていく。今回もそうなるだろう。そして次にまた広告のクリック率がスパイクするのは、SERPをリニューアルするときになるだろう。
https://www.youtube.com/watch?v=NtCs5miYGmo&feature=youtu.be&t=127
このような動きのなか、司法省がGoogleに対する独占禁止法への抵触を発動する準備に動いているとの報道もなされている。
Googleによる引用元表記問題
もう一つ、Googleによる引用元表記に関する問題についてランド氏は言及した。
ウェブサイト運営企業が、Googleの強調スニペットとしてデータ引用された結果、大幅にトラフィックを下げた事例や、引用元としてクレジット表記されないことに対して訴えを起こす動きがメディアを通じて広く伝わり、結果、Googleが仕様を変更するといった事例が出てきている。
この例の一つとして、歌詞データベースのGenius(ジーニアス)を取り上げる。
Geniusは、自社の歌詞データが、自社のクレジット表記がない形で、アンサーボックスとして使用されている可能性があったという。その証跡を掴むために、歌詞内で複数回登場するアポストロフィについて、2種類の表記を使い分けて、自社の歌詞データに仕込んだのである。
後日、Googleのアンサーボックス内に表示された同じ歌詞の中のアポストロフィはGeniusと同じ表記で更新されており、クレジット表記をせずに使用していることが明白となった。
このことは、ウォールストリージャーナルにより「歌詞サイトがコンテンツを盗まれたとしてGoogleを訴えた」との記事タイトルで取り上げられ話題となった。
しばらくして、Googleは歌詞の引用元サイトの表記&リンクバックを開始したが、この歌詞に関しては、Geniusとは別のサイトが引用元となったという。
それだけではない。
これに似た変更は画像検索や、ナレッジパネル内のリンク、強調スニペットに画像も引用される場合の引用元クレジット表記などにも施された(ちなみに、これにより画像検索の流入機会は再び少し上昇したと言える)。
1つのウェブサイト運営企業がメディアを通じて社会に訴える力が、Googleに変化を促した事例として考えることができるだろう。
市場におけるGoogle社の問題をまとめると、次の3つだ。
- 次の大統領選挙によってGoogleのような巨大ハイテク企業に対して、分割命令が行われる可能性もあり得る。
- ゼロクリック検索の割合がほぼ50%に到達した。「トラフィックをGoogleに奪われた」として嘆くのではなく、全く新しい機会(Brand new opporitunity)が生まれたと捉えて、活かし方を考えるべきである。
- 自社サービスが、フェアじゃない形でGoogleからトラフィックを奪われたと判断できた場合においては、メディアを活用すべきである。今は、メディアによる報道の力がGoogleに対して及ぼす力は大きい。
後編は、「ゼロクリックへの対処法」、「権威性、正確性、網羅性への比重が高まるアルゴリズム」といった話題についてレポートする。
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