専門知識不要! ソニーとベネッセの活用事例から学ぶマーケターでもできるAI予測分析
近年、AIの実用化が多彩な分野で本格化し、マーケティングの世界でも活用され始めている。それも、必ずしも高度な専門知識を必要とすることなく、マーケターが自分でAI予測分析ができるほどに使いやすく進化している。
そう語るのは、ソニーネットワークコミュニケーションズの高松慎吾氏だ。「Web担当者Forumミーティング 2021 春」に登壇した同氏は、現場マーケターの業務にAIがどう活用できるのか、事例とともに紹介した。セッション中盤からはベネッセコーポレーションの中井徳崇氏が、Webサイトでの課題解決に活用した効果や実感などについて語った。
データが身近に存在するマーケターこそAI活用に向いている
冒頭で、高松氏は「マーケターはAI活用に適している」と語る。その理由は、業務のKPIがはっきりしており、顧客データなど扱えるデータが身近に存在するため、すぐに試せる環境にあるからだという。
「予測分析」が教えてくれる効率的なリードへのアプローチ
その使い先の一つが「予測分析」だ。それによって、マーケティングの多くの場面で、意思決定の精度が上がり、かつ効率的にできるようになる。高松氏は「予測分析とは、ビジネスにおける天気予報のようなもの」と述べ、「外出する際に天気予報を見て、上着や傘は必要かなどを判断している。それは最高気温や降水確率という予測・予報にもとづいて意思決定をしているからだ。それと同じように予測を基盤とした意思決定はマーケティングにも使えるはず」と語る。
たとえば、リードが多く、どこからアプローチすればいいか迷っているとき。AI予測分析によって、見込み顧客の一人ひとりにアプローチした際の成約率を予測できる。そして、成約予測率の高い順にアプローチすれば、最も効率的に成約数を上げることができるだろう。また、売上に合わせて販促費・リソースを投入する際にも、売上予測に則れば効果的な配分が可能となる。
これまで経験と勘に頼ってきた部分を、予測分析によって精度の高い自動予測ができれば、誰でも飛躍的に効率性を高めることができる。しかし、今まではデータサイエンティストのような高度な専門性が必要だった。そこで、専門知識がなくとも最先端のAIを導入できるのが「Prediction One(プレディクション ワン)」だ。
既に17,500社が利用しており、数クリックで予測分析ができ、成果はもとより、データを社外に出す必要がないことなどが高い評価を受けている。文系、AI人材なしという状況でも活用できるのが強み(高松氏)
ソニーグループでのAI予測分析活用事例
生産性向上や成約率アップに貢献
具体的にどのような場面で使われるのか、ソニーグループ3社の事例が紹介された。
事例① テレマーケティングでの成約率向上
まず、ソニーネットワークコミュニケーションズでのダイレクトマーケティングにおける「テレマーケティングのコミュニケーション・効率改善」での活用例が紹介された。
多数のリードから成約の予測確率が高い順に、電話をかける順番を決定。「Prediction One」を導入する前、担当者の勘で行っていた時期と比べ、テレマーケティングの予測精度が56%から79%へと飛躍的に向上し、その結果、テレマーケティングの成果のみならず、全体的な成約率向上につながった。
事例② コールセンターでの「入電数」予測
続いてソニー損保の自動車保険のコールセンターでの事例では、オペレーターのシフトを組む際に必要な「入電数」の先読み予測において、「Prediction One」を活用した。従来の経験や勘よりシフトを組む精度が高まり、オペレーターの過不足がなくなった。この場合も、データサイエンティストのような専門家は不在で、普通のビジネスプロセス内で行っている。
事例③ 再アタックする顧客の優先順位作成
3つ目のSREホールディングスの不動産仲介業は、“再アタックする顧客リスト”に対して「Prediction One」で成約予測を出し、優先順位を決定した事例だ。以前は担当者が成約優先順位のリストを時間をかけて作成していたが、自動化によって作業時間が1/58、12時間以上短縮された。
また、ソニーグループ以外の企業でも、AGCや東急カード、ベルシステム24などでも活用されており、「UIが怖くない」「専門家でなくても使える」と好評だという。
ベネッセコーポレーションの活用事例
サイトリニューアルを起点にAI予測分析を導入
セッション中盤で高松氏に代わり、ベネッセコーポレーションの中井氏が登壇。求める情報が見つけにくい問題点を抱えていたWebサイトを「お客様本位」の視点でリニューアルした経緯、その流れで「Prediction One」を導入し、Webサイト訪問者のペルソナ予測などにAIを活用した事例や効果について紹介した。
情報が見つけにくかったサイトをユーザー目線でリニューアル
ベネッセは、経営の起点「パーパス(存在意義)」を踏まえ、お客様本位/スピード重視/革新的挑戦などを意識してWebサイトリニューアルを実施した。その背景には、コロナ禍によって子どもたちのオンライン学習が増え、新たなニーズが発生していることがあるという。
短期間で状況が変化する中、定期的なモニタリングでニーズを把握し、スピーディに対応するための方法を検討した。その結果、ユーザーが欲しい情報を見つけづらい「情報が埋もれている」という大きな問題点に気づいたという。
どんな事業者でも、成約確度の高いお客様とよりいっそうコミュニケーションを取りたいと考える。そのため、Webサイトでは、いかに申し込ませるかという“クロージングコミュニケーション”が優先されてきた。しかし、多くのお客様は成約のもっと手前の段階で、「通信教育で大丈夫なのか」「どのくらい親の負担があるのか」など、私たちが想定するより多彩な悩みを抱えている。
そうした状態で入会のインセンティブを打ち出しても、ミスマッチが起きがちだった。しかも、サイトの構成が特徴や機能などで分類され、網羅性を優先した内容になっていたために、お客様が求める情報を見つけにくい構造だった(中井氏)
また、サイトが静的なパーツの集合体でできており、ニーズや環境の変化に対応したくても、素早く更新しにくい構造になっていた。そのため、ユーザーにフィットした情報をスムーズに提案できるサイトに転換することが求められていたという。
そこで、いくつかの目的ごとにパーツを切り分け、マーケットの状況に合わせて、動的なパーツで切り替えを行い、優先度に応じたコンテンツ管理を行えるようにした。ソースが共通化できるため、制作工数も削減できるメリットも生まれた。
AI導入事例① アンケート回答を学習させコンテンツを出し分け
そして、その上で行ったのが、「ユーザーニーズやペルソナでのコンテンツの出し分け」だ。「こどもちゃれんじ」のトップページにポップアップを設置し、クリックするとニーズに関するアンケートが表示されるよう設定した(現在は設置個所を増やし仕様も改善)。その回答をAIの学習データとし、ニーズやペルソナ判定に活用することとした。そして、そのニーズにそったコンテンツを出し分けるようにしたところ、AI予測を使わない状況でも、CVRがそれまでの4倍になったという。
中井氏は「アンケートの回答内容によってお客様が求める情報を提供できた」と評価しつつも、「入会意欲の高い人が積極的にアンケート回答したということも考えられる」と語る。しかし、アンケートの回答数が少なく、どうしてもコンバージョンの絶対数がスケールしないことが大きな課題となっていた。そこで、行ったのがAIによるペルソナ判定だ。
AI導入事例② AIでペルソナ判定 スケールを目指す
AI予測システム「Prediction One」を導入し、アンケートで蓄積した回答を学習データとしてペルソナ判定を実施。さらにそのペルソナごとのコンテンツ閲覧履歴を用いて機械学習を行い、たとえば「ペルソナ#1はパーツAを見るが、パーツBは見ない傾向」というようにモデル化を行った。
このとき、ペルソナと匿名IDは対になっており、あくまで個人が特定されない方法で整理していく。さらに、そこからアンケート“未回答”のペルソナの閲覧履歴からモデルにあてはめAI予測し、それにもとづいてコンテンツの出し分けを行った。
その結果、AI予測を行わなかった場合と比べてCVRは約2倍となり、さらにスケール分としては、アンケート回答のみで出し分けをしていたときの約3倍のコンバージョンを獲得したという。
AI導入事例③ KPI着地予測
そして、訪問者数や広告予算から着地予測(売上予測)を行う流れも紹介された。まず訪問者数や広告予算からコンバージョンの関係を機械学習でモデル化し、未来の訪問者数を仮定し、モデルを当てはめて着地を予測した。それによると、実際の着地とのズレはわずか6%と、高い精度で予測できることがわかった。
中井氏は、これらの効果の結果はまずまずとしながらも、「事業成果としては道半ば」と述べ、「ベネッセは『お客様の人生をサポートする』ことを目指し、まだまだ多くいるお困りの方をサポートする必要がある」と意気込みを見せ、今後取り組みを予定している「AIでコンテンツを最適化」の流れについても触れた。アンノウンユーザーからペルソナを紐付け、ペルソナごとに効果の高いコンテンツとその確率を予測することが可能になるという。
多くの工程が自動化されUIもすぐれる使いやすいツール
中井氏は「Prediction One」について、「データの読み込みも早く、データ定義も自動的に行ってくれる。項目が選択でき、モデル変更もデータ加工も画面上でできる。そのため、ちょっと調整したい場合もデータに戻る必要がなく、大変やりやすかった」と評する。重複データなどミスやエラーも自動抽出され、交差検証など精度を高めるチェックもクリックだけで行える。評価用のデータも学習用データから自動抽出されるため、手間もかからない。
そして、実行においても手放しで進められるのも魅力だという。予測精度がひと目でわかり、指標も表示されるため、わかりやすい。また、モデルを比較しやすく、意思決定が行いやすいUIであることも使いやすさにつながっている。
中井氏は、他社製品との比較も行い、精度や直感的な操作性を評価する。
面倒なコーディングもモデル作成や予測もクリックだけで完結する。ロジック数も多く、データを入れると「このデータなら、このモデル」というように自動的に選択してくれるため、専門知識がなくても使える簡便さがいい。機械学習を民主化すると言っても過言ではない。AIは敷居が高いと思っている人こそ試してほしい(中井氏)
データ収集・蓄積をしっかりと行うことが重要
あとは「仮説を立て検証すること」を楽しむべし
その上で改めて、中井氏は「AI活用ではデータが何よりも大事。それさえきちんとできれば、ツールがなんとかしてくれる」と語り、そのためにも、社内調整の重要性について「何をしようとしているのか」「どのような準備が必要か」などをすり合わせ、全員で関わることが大切と語った。というのも、中井氏自身、社内調整が上手くできず、データ取得に失敗した経験があるという。
中井氏は「データがしっかりしていれば、結果も伴う。しかし、逆にデータが間違っていれば、結果も芳しくない。それをAIのせいにして『やめよう』ということになるのはもったいない」と語り、「しっかりとしたデータ収集のためには社内調整で目線を併せ、データ抽出・仕様をしっかりと決めることが大切。また、データの異常に気付けるか、違和感を掘り下げられるかが重要であり、そのためにはビジネスの理解が必要」と力を込めた。
さらに、いい結果を得るためには「仮説を立て検証すること」を楽しむことが大切だといい、「しっかりデータを作り、ツールに任せればいい。あとは、どれだけ予測に興味を持ち、AI活用に前向きになれるかにかかっている」と語り、セッションを終えた。
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