note #等身大の企業広報レポート

キリン、食べチョクが語る「顧客を巻き込むコミュニケーション術」

キリンで「広報活動」と「広聴活動」を指揮する松尾氏、「食べチョク」運営するビビッドガーデンの下村氏が登壇したnote主催の #等身大の企業広報のイベントレポートをWeb担でお届けします。
note主催イベント第3弾キービジュアル

noteプロデューサーの徳力基彦さんをモデレーターとして毎月開催している「等身大の企業広報」イベント。6月24日(木) 19時に開催された第4弾では、「顧客を巻き込むコミュニケーションとは?」をテーマに、キリンの松尾さんと、食べチョクを運営するビビッドガーデンの下村さんにお話しいただきました。

オウンドメディアやSNSアカウントなど、企業の情報発信の選択肢はますます増えています。そのなかで重要な発想の転換の1つは、「企業のみ」が情報発信をするという姿勢から、顧客や社外のステークホルダーを巻き込む姿勢にシフトすることです。

イベントでは、顧客や社外のステークホルダーを巻き込むコミュニケーションに挑戦されている2社をお招きし、現在の企業の情報発信がどのように発想を転換していくべきかについて伺いました。これからの企業広報のあり方を探りたい、自社の情報発信に力を入れていきたいという方、必見です!

noteが主催したイベントレポートをnoteの許諾を得て、Web担で掲載しています。オリジナル記事はこちら

https://note.com/notemag_business/n/n52b024f6cda6

イベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

目次

広告だけでは届けきれない情報を伝える

―― 本日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介と、それぞれの取り組みのご紹介をいただきたいと思います。

松尾さん: キリンホールディングスのコーポレートコミュニケーション部でオウンドメディアやSNSのチームをみています。コーポレートコミュニケーション部はいくつかチームが分かれており、横の連携をとりながら「広報活動」と「広聴活動」の2軸で業務を行っています。社内の情報収集をしながらお客様に情報発信をするのが「広報活動」。ここでいう「お客様」は、エンドユーザーだけでなく、さまざまなステークホルダーを指しています。逆にステークホルダーからいろいろな情報を受け取り、それを社内に共有・分析して、社内への提言や次の情報発信に生かしていくのが「広聴活動」になります。

キリンホールディングス松尾さんの写真
松尾 太郎さん
キリンホールディングス株式会社
コーポレートコミュニケーション部 主務
IMJでWebプロデューサーや事業部責任者を経験したあと、外資系広告代理店のDigital部門を経て、現在はキリンホールディングス株式会社のコーポレートコミュニケーション部に所属

下村さん: 「食べチョク」を運営する株式会社ビビッドガーデンで広報を担当しています。食べチョクはWeb版の直売所のようなもので、生産者さんから食材やお花を直接購入することができます。生産者さんと直接コミュニケーションをとり、商品の感想を伝えたりすることもできます。サービス開始時は農作物のみの取り扱いだったのですが、いまはお肉やお魚、乳製品、加工品、お酒、お花もスタートして、いわゆる一次産業の商品はすべて取り扱っています。

食べチョクの一番大きな特徴は、販売価格を生産者さんが決めることができるところ。自分で値段をつけて販売し、それを自分で梱包して直接お客様に届けることによって、ご自身の農園のファンをつくるというようなモデルになっています。

ビビッドガーデン下村さんの写真
下村 彩紀子さん
株式会社ビビッドガーデン 広報
新潟県魚沼市のユリ農家に生まれ、豊かな自然環境のなか育つ。学生時代はインターンとして生命保険の営業などを経験。株式会社ネオキャリアに入社後、営業を2年、自社の新卒採用に2年半携わる。「地域経済を回す仕組みづくりをしたい」との想いから、2019年10月に「食べチョク」を運営する株式会社ビビッドガーデンに1人目の広報担当として入社。現在は広報のほか、コミュニティ運営なども担当。

―― おふたりが発信をはじめた背景というのは?

下村さん: お客様が食べチョクで商品を購入してくださる理由は、「おいしいから」だけではありません。おいしいものも購入する手段もほかにたくさんありますから。それよりも、生産者さんがどんなこだわりを持っているのか、この野菜はどんな背景でつくられたのかなど、裏側にいるひとの生活を想像して、「応援したい」とか「食べてみたい」と思って購入してくださっているお客様が多いんです。

そういった意味で、やはり広告だけでは届けきれない情報がたくさんあるので、ひとやサービスにあるストーリーをどう伝えていくかというところに会社としてすごく力を入れています。広報に力を入れると、一気にインバウンドや採用候補者が増えたりと反響も大きいので、社内でも広報活動について一緒に考えてくれるメンバーが増えています。

松尾さん: キリンはテレビCFが多く、認知や購入をしていただくという意味ではこれもとても重要なのですが、オウンドメディアの発信という観点でいうと、もっと我々のほうからメッセージを発信していかなければと考えました。我々もビールにしろ、ウィスキーにしろ、清涼飲料にしろ、こだわりを持ってつくっています。こういう原材料をつかっているとか、開発者の想いとか、いろいろなストーリーがあるので、それを社内で集めて編集して、発信していくことで、共感していただく方をもっと増やしたいと思っています。そこから共感が同心円状に広がっていくということを目指したいと思っています。

社会と社内両方に求められるオウンドメディアを

―― 共感によって広がっていくというのは重要ですよね。実際にどんなところにこだわって運営されているのかもお聞きしたいと思います。

モデレーター徳力さんの写真
モデレーター: 徳力 基彦さん(noteプロデューサー)

松尾さん:オウンドメディアは社内と社会両方に求められる存在であるべきということを意識しています。オウンドメディアで情報を発信して、それに共感していただくことで社会なりお客様から関心を持っていただくというところは一般的な外に向けた情報発信ですが、社内でもいろいろな取り組みを進めています。

たとえば、公式SNSやKIRIN's Storynoteといったプラットフォーム上に、社内外の方へのインタビュー記事なども掲載しています。そこではブランドマネージャーだけではなく、広報担当の社員や工場の方など、いろいろな組織の方がいるので、その方々の声を拾って想いを伝えて、それを編集して外に発信していくということに取り組んでいます。

―― 社会と社内の間にオウンドメディアがあるのはいいですね。会社側に寄りすぎてしまうと会社が発信したいことを広告的に発信するということになりかねないし、一方で社会側に寄りすぎてしまうとやたらとバズる投稿ばかりみたいになってしまう。そうしたメディア的な構造のなかで、どのようにバランスを取られていますか?

松尾さん:そこは非常に難しいところですね。徳力さんがおっしゃった通り、じつは数年前は、我々の公式SNSアカウントでバズ狙いみたいな方向の発信をちょっとやっていた時期があったんです。ただ、やはりそれに限界を感じ、方向性を変えたいと思いました。キリングループは、2027年までに「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」という目標があります。そのような流れもあり、「Creating Shared Value」、つまり「共通価値の創造」というビジョンと連動した発信を広めていくという方向に転換しました。

―― 2027年というとまだ先という感じがしてしまいますが、それに向けてブランド価値を上げていくというのは長期的に考えると非常に重要ですね。食べチョクさんのこだわりのポイントについてもお聞きしたいと思います。

下村さん:各社員がそれぞれの視点でSNS発信を行っています。義務ではないのでやりたいひとだけでそれぞれ自分のアカウントを持ち、最近食べた食べチョクのおいしい食材の話や、ふだんの仕事や日常の話を発信しています。本当にみんな食べチョクのサービスが好きなので、自発的にやっていますね。

また、食べチョクに登録している生産者さんの学び合いの場として「食べチョク学校」をオンライン開校し、全国の生産者さんたちの横の繋がりをつくっています。ノウハウ共有会や勉強会、講師をお呼びした交流会などを定期開催していて、その反響がすごくよかったので、Clubhouseでも毎日1時間食べチョクに登録していない生産者さんでも参加できるルームを開催しています。

―― Clubhouseが日本に上陸してからすぐにはじめられていましたよね。その効果というのは?

下村さん:作業をしながら「ながら聞き」ができるClubhouseと一次産業の相性はとてもいいんです。Clubhouseをやることによって一次産業の一次情報をリアルタイムにキャッチアップできたり、生産者さん同士の繋がりが生まれてそこからコラボが生まれたりしているなと実感しています。また、食べチョクスタッフが毎回入れ替わりで入っているので、スタッフの人となりや想いを伝えていくことで、先ほど松尾さんがおっしゃっていたような共感の輪が広がっていくツールの1つになっていると思います。

トーク中の青木さん、森さん、徳力さんの写真

「点」の活動を積み重ねて「線」にする

―― いまの質問の延長で、効果測定をどのようにやられているのかもお聞きしたいと思います。

下村さん: たとえばテレビのようなわかりやすい露出でない限り「このメディアに載ったから検索数が増えました」みたいな証明は残念ながらできないですよね。ただ、ユーザーインタビューなどをしていて思ったのは、1つの露出で爆発的に知っていただくのではなく、それぞれ「点」の活動を積み重ねることで、いつか「線」に繋がればいいのかなと。

たとえば、6月16日(水)から2週間限定で、コロナで販路がなくなってしまった生産者さんの食材を中心にシェフが料理を振る舞うポップアップレストラン「RESQ(レスキュー)by #CookForJapan 」をオープンしたんです。するとオープン後に日本農業新聞さんが一面でドンと取り上げてくださって。その記事を見たJAの担当の方から「すごく共感しました、応援しています。JAのジンジャエールを提供させてください」とご連絡をいただいたんです。JAの担当者の方ももともと食べチョクを知っていただいていたようですが、たまたま日本農業新聞さんを見たことによって、それまでの「点」が「線」に繋がり、行動を起こしてくださったんです。

松尾さん: めちゃくちゃいい話ですね。じつは僕も今日少し聞きたいなと思っていたのですが、食べチョクさんとJAさんの関係ってなんか聞いちゃいけないのかなとちょっと思ってしまって。

―― 食べチョク代表の秋元さんがnoteで記事を書かれていましたね。

下村さん: はい。『農協って敵ですよね?とあまりに聞かれるので…』という記事を秋元のほうで書かせていただきました。JAさんと私たちは一見競合に思われがちなのですが、まったくそうではなく、「一次産業を活性化する」という同じ想いの元、一緒に補い合っていると考えています。安定供給ができるのはJAさんのおかげですし。

―― この例のように、一見敵に思えても広義では味方になるみたいなことが、インターネット上のコミュニケーションのおもしろさだと思います。食べチョクさんの場合はまだ会社の規模がそれほど大きくなく、社長さんのPRに対する理解度も高くて、打てば響くという感じだと思いますが、キリンさんの場合はどういうふうに広報活動の効果や価値を確認されていますか?

松尾さん: キリンのミッションやブランドストーリーを伝えることで共感していただく方を増やしたいというところで、たとえば、以前noteで発信させていただいた『#日本産ホップを伝う』という記事がTwitter上で700万リーチを獲得しました。これは岩手県遠野市のホップをつかってうちのビールをつくっているという話を取材してまとめたものです。企画や取材、編集というところにかなりこだわって記事をつくって発信したことで、多くの方に伝わり、共感いただけたという事例もあります。

もちろん、予算をかければある程度リーチは取れますし、そうした広告の効果も大事ですが、広告だけでは伝えきれないオーガニックで広まったものに価値として重きを置いていくというスタンスで取り組んでいます。

情報発信の「主語の抽象度」を上げることが重要

―― ありがとうございます。では最後に、従来の広報的な活動から発想を転換し、「等身大」の企業広報的なものを強化するにはどんなところからはじめればいいのか、おひとりずつヒントとしていただければと思います。

松尾さん: 従来のメディアリレーション的な広報とオウンドメディアをいかに組み合わせながら発信できるかというところがポイントだと思います。数年前に比べ、事業会社やブランドと広報活動との連携がより一層できるようになってきているという実感がありますので、ぜひ広報のセクションの方は自社のブランドですとか、商品を担当されている方や生産を担当されている方などとのコミュニケーションを増やしていっていただければと思います。

下村さん: 情報発信の「主語の抽象度」を上げることが重要だと思います。自社やサービスが主語ではなく、「業界や産業にとってどうか?」を考えて発信するということですね。「食べチョクのファン」をつくるのではなく、一次産業や生産者、地域のファンをつくっていくことが食べチョクをつかう理由に繋がっていくのかなと。やはりそういう広義の意味での広報活動をしていきたいなと私も思っていますし、そういう広報活動をするひとが増えたら、業界に興味を持つひとも増えるのではないかなと思っています。

―― おふたりとも今日はありがとうございました! 聴いていただいたみなさんの今後の広報活動に何かヒントがあれば幸いです。

本記事は、noteの転載記事です。オリジナル記事はこちら

https://note.com/notemag_business/n/n52b024f6cda6

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