企業SNS担当者なら誰もが恐れる「炎上」、どう向き合えば防げる?
オーガニック運用・広告配信・危機管理など、企業のSNS活用のポイント、最新情報を、SNSマネージャー養成講座の講師陣「チーフSNSマネージャー」のメンバーが、それぞれの得意分野を中心に解説します。
今回は、SNSマネージャー養成講座で講師も務める小野寺翼氏(フルスピード)が回答します。
自社のTwitterやFacebookのSNS運用を担当していますが、炎上が起こらないか心配です……。炎上を防ぐにはどうしたらよいですか?
私は2011年頃よりSNSのご支援を担当していますが、企業のSNS担当者さんが今も昔も抱えている悩みですね。ずばり答えをいいます! SNS担当者の努力だけで、炎上をゼロにすることはできません。ただし、SNSというメディアの基本、ソーシャルメディアの本質を理解したうえで対策をとることで、火種が発生するのを前もって防ぐことや発生後の被害を最小限にすることはできます。
ソーシャルメディアの本質は「生活者発信」であること
まずSNSの基本となるソーシャルメディアの本質を理解しましょう。そのためには従来のマスメディアと呼ばれるメディアとの決定的な違いから理解すると分かりやすいです。
従来の4マスと呼ばれるメディア(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)は、企業が我々生活者に対し一方向で発信するメディアです。言い換えれば、企業のみが発信できるメディアです。一方でソーシャルメディアは、企業だけでなく、我々のような一般生活者も発信できるメディアです。言い換えれば「企業と生活者が同じ立場で、同等に発信でき、コミュニケーションを行えるメディア」です。
好きなサービスや愛用している商品について、最新情報や嬉しい経験をSNSで共有したり、好きなアーティストやスポーツ選手の活躍をSNSで知ったりということは多いでしょう。さらにはテンションが上がり、自分自身も投稿することもあるでしょう。
一方で、商品やサービスが期待外れだったり不備があったりしたため、残念な思いや怒りを感情に任せて投稿してしまった、という人も多いかもしれません。生活者の忌憚なき声が集まる場所であること、これこそがソーシャルメディアの魅力であり本質なのです。
炎上に話を戻しますが、世の中の炎上の多くは、企業からの発信がきっかけではなく生活者による発信がきっかけで発生します。そうなるとSNS担当者の力量だけではどうにもならないですよね。
冒頭から読者の皆さんの期待を削ぐようなことを言ってしまいましたが、この本質を理解したうえで、SNS担当者のがんばりで火種の発生を防ぐこと、もしくはスピーディに鎮火することで、炎上を最小限にすることはできます。
2種類のガイドラインを用意しよう
企業関連のSNSで炎上が発生する場合は、「自社のSNSアカウントでの発信」「自社員をはじめとした自社関係者の個人アカウントの発信」がきっかけとして考えられます。ですので、それぞれに対して、予防的に2種類のガイドラインを用意するのが有効です。
ガイドラインでは「SNSはこのように使いましょう」「こういった内容は投稿しないようにしましょう」といったマナーやルールを明文化し共有することが重要です。また「誹謗中傷や権利を侵害する投稿・コメントは削除する」旨を事前に明確にしておけば、万が一の場合は迅速に削除できるため、延焼を防ぐことができます。
以下に例として、サントリーと資生堂が実際に公開しているガイドラインを紹介します。参考にしてください。
サントリー:自社のアカウントについてのガイドライン
https://www.suntory.co.jp/snsguide/
自社SNS上のユーザーがコンテンツを発信(コメントや返信を含む)する際に、炎上の火種やトラブルになりえる内容は削除する旨を、例とともに事前に明示し先手を打っています。
資生堂:自社の社員向けのガイドライン
https://corp.shiseido.com/jp/sns/agreement.html
自社員がSNSを利用するにあたっての禁止事項(例:第三者の権利・利益を侵害する行為)、規約に違反した場合の対応について、明文化しまとめています。「社員向けのガイドライン」は公開が必須ではありませんが、公開することで「SNSに関するリスクを捉え、対策に取り組んでいる企業である」とアピールできます。
最新の炎上事例を共有しよう
とある炎上事例を紹介したいと思います。
とある焼肉チェーン店の厨房でアルバイト従業員が、ソフトクリームを製造するマシンの注ぎ口に直接口を付けて食べるといった悪ふざけを行い、自身のSNSアカウントに動画を投稿した。
結果として、多くのSNSユーザーから不衛生だと批判が殺到し、炎上につながった。
この事例、いわゆるバイトテロと呼ばれる事例ですが、いつ頃発生したものだと思いますか?
答えは……2021年4月。バイトテロと呼ばれる炎上は、10年近く前から各方面で起きていますが、令和となったこのご時世にも発生しているのです。
炎上がなくならない理由
この事例では、発生場所がここ数年で台頭してきたTikTokだった点、投稿したのがSNSを始めたばかりと思われる若いアルバイト従業員だった点、2021年というコロナ禍の最中で衛生面に厳しい目が寄せられていた点などが背景にあり、より大きな炎上になったと考えられます。
つまり炎上がなくならない理由として
- 新規にSNSに参入するユーザーが増えている。
- SNSの炎上には、新しいメディアの台頭や時世に合わせたトレンドがある。
ということがあげられます。ここから「最新動向の把握」が大切であることが分かります。「昨今どのようなSNSで、どのような要因がきっかけで、どういう炎上が起きているのか?」をとりまとめ共有することで、自社のSNS発信ならびに自社員の個人アカウント発信での炎上を、限りなくゼロに近づけることができるでしょう。
また事例共有は、紙やデータを配布して終わるのではなく、短時間でも構わないので、相互に共有する時間を確保し、理解してもらうようにしましょう。たとえば、週に一度朝礼の時間を5分~10分程度使い、直近の事例を紹介するという方法も有効です。
自社アカウントで迅速に火消しをしよう
冒頭の質問に戻りますが、「炎上が怖いからSNSをやりたくない」といった声を、企業の担当者からよく聞きます。確かに、自社でSNSアカウントを持たなければ、そもそもSNS発信がきっかけでの炎上は起きません。けれども、ここまでお読みいただいた皆さんであればそれは違いますよね!?
冒頭で触れましたが、世の中のSNSでの炎上の大半は、生活者の発信がきっかけとなります(バイトテロのような自社員の発信も含む)。いい返れば、自社がSNSをやっていようがなかろうが炎上は起こるのです。
一方、自社がSNSを持っていないからこそのリスク、それは火種が発生した早期の段階で鎮火に向けた初動がとれない点です。SNSアカウントを持っていれば、炎上が発生している場所(例:Twitter、Facebook)で、迅速に下記のような対応が取れます。迅速かつ真摯に自社のSNSアカウントで行うことで、炎上の拡大防止および鎮火につながるというケースが多いのです。
- 炎上発生という事実に対するお詫び
- 十分に吟味をしたうえでの事実説明や釈明
- 今後の対応策の案内
炎上の際にやってはいけないこと
一方で絶対にやってはいけないこと、火種となった投稿を行ったユーザーを責めたり、投稿の削除をお願いしたりする行為です。このような行動は、その一連のやり取りまで拡散され、さらなる炎上につながることがほとんどです。
ユーザーに投稿の削除をお願いしたところで、別のユーザーがその投稿のキャプチャを持っているなんてケースも多くあり、削除後もそのキャプチャがSNSに投稿され、炎上が拡大するリスクもあります。その結果、自社商品やサービスのブランド毀損につながるわけです。
まとめ:大事なことは、ほんの一握りの優しさや思いやり
今回のコラムでお伝えしたかった点は、大きく下記となります。
- ソーシャルメディアは生活者発信ありきのメディア、ゆえに自社SNSアカウントの有無にかかわらず炎上は起こる。
- 自社アカウントおよび自社員の発信による炎上予防には2種類のガイドラインの用意が効果的。
- 炎上にもトレンドあり、SNSも新しいメディアや新規ユーザーも絶えず増えているからこそ、最新事例共有こそが予防効果大!
- 自社アカウントを持っているからこそ火消しができる、万が一、火種が発生した際は、迅速かつ真摯な対応で鎮火を。
今回は炎上対策という切り口ですが、筆者が伝えたいことの根底にあるのは、「ソーシャルメディアの本質は、生活者発信主体だ」ということです。だからこそ、炎上に限らず、ソーシャルメディア上で発生する誹謗中傷をはじめとしたトラブルに対して、強い悲しみを覚えます。
このことは企業に限らず我々生活者一人一人の発信についても言えることですが、根本にあるのは「思いやり」や「優しさ」といったものではないかと強く考えております。SNSを利用する我々、生活者一人一人が自身の発信に責任を持ち、SNSに発信をする前に「この発信を観た人はどう思うだろう?」「不快にならないだろうか?」「誰かを傷つけないだろうか?」……そんな思いやりや優しさを持てれば、炎上やSNSで起こり得る大半のトラブルはなくなるのではないかと考えます。
私がよくお伝えしている例え話ですが、SNSで投稿をする前に「東京の渋谷駅近くにあるスクランブル交差点」を頭に描いてください。
こちらの通行量は、1回の青信号で多いときは3000人。1日で50万人もの人が通ると言われています。この交差点にある大きなディスプレイ。ここに、今SNSに投稿しようとしている内容が、丸一日掲載された状態を想像するのです。このときに、相手、第三者、自分自身などを
- 不快にしない
- 傷付けない
- トラブルに巻き込まない/巻き込まれない
ことを気に留めましょう。誰もがこの、ほんの一握りの優しさを持つことが大切だと考えます。
SNSは本来、生活者発信をきっかけに、良い商品やサービス、魅力的な情報を拡げることができる場であると考えます。だから、良いなと思った情報、商品やサービスは、ドンドンSNSで発信してもらいたいと強く思っています。それらが拡がり多くの人に伝わることが、ソーシャルメディアの魅力なのですから。
小野寺でした。
2020年より私たちは、「SNSマネージャー養成講座」という資格試験をスタートしました。SNSマネージャーの上位資格である上級講座では、実際に運用しているアカウントをサンプルにして、徹底的に運用目的とKPIなどの必要項目を掘り下げて企画書を作成するワークを実施しています。
この記事を読んで「理屈はわかったけど、実際自社のアカウントに当てはめるとピンと来ない。さてどうしたものか……」とお悩みのあなた。ぜひチャレンジを。
タイトルデザイン、タイトルイラスト:995(Twitterアカウント)
三度の飯より猫が好きなイラストレーター。ゆるくてかわいいイラストが得意です。
ソーシャルもやってます!