ユーザーの言う「欲しい」はウソなのか? UXデザイナーが教える「本当のユーザー理解」
ファクトを充分に集めずに推測だけで仮説を立てると「ユーザーがほしいと言った機能をつけたのに使われない!」という事態に陥る。
日本ウェブデザインの羽山祥樹氏が「デジタルマーケターズサミット 2022 Winter」に登壇し、ユーザー心理にたどりつく方法を図解を交えてやさしく解説。これを実践すれば、ユーザーの表面的な言葉や自分の先入観には惑わされないUXデザイン・UXリサーチができる。
「ユーザーを理解する」の本当の意味を理解する
お客様の目線になって考えよう
自分がユーザーだったらどうしてほしいか考えよう
どちらも、よく聞く言葉だ。しかし、ユーザーのことを考えずにプロダクトを作る人はいない。誰しも、ユーザーのことを考えているはずだ。にもかかわらず、世の中には「使ってもらえないプロダクト」「使ってもらえない機能」「ユーザーに響かない施策」があふれている。これは「ユーザーならどうしてほしいかを考えるだけでは、プロダクトづくりの解像度に足りないからだ」と、羽山氏は言う。
のどが渇いているAさんに、何を出す?
たとえば、Aさんが「のどが渇いたなー」と言ったとする。あなたは「のどが渇いているのか。自分だったら冷たいお茶が飲みたいから、お茶を出そう」と思う。これは、相手のことを考え、自分だったらどうしてほしいか考えた結果の行動だ。
しかしお茶を差し出すと、Aさんは「気持ちは嬉しいけれど、ひと仕事終えたところなので、冷えたビールで乾杯したかったんだよ」と答えた。ユーザーならどうしてほしいかを考えた結果は、あなたのイメージの押しつけでしかない。ユーザーを理解するためには、推測するのではなく、何がほしいかを質問するべきだったのだ。
ではAさんの望むとおり冷えたビールを出すのがよいのだろうか。多くの企業が陥る失敗がここにある。ユーザーの言うそのままを提供してしまうのである。
Aさんは言葉ではビールを求めている。しかし実はAさんは糖質制限中でビールは飲めないという人物だった。つまりユーザーの「欲しい」という言葉のとおりにビールをわたすのも正しくないのである。
ユーザーを理解し、ユーザーのニーズに真に応えるのであれば、ユーザーが言葉にしていない糖質ゼロのノンアルコールビールを出す。そこまで踏み込んで、はじめてプロダクトづくりに足る解像度だという。
よいプロダクトづくりとは、ユーザーならどうしてほしいかを考えるのではなく、ユーザーを理解してユーザーに必要なものを出すこと。もはや『自分がユーザーだったら』という観点は消え失せています(羽山氏)
ユーザー理解≠アクセス解析ツールでの分析
ユーザーを理解するための専門技術が「UXデザイン」や「UXリサーチ」だ。ユーザー理解というと、アクセス解析ツールで分析することをイメージするかもしれない。しかし、ユーザーの行動を数値で表したアクセス解析では、何が起きているかはわかるが、なぜそうなっているかはわからない。
たとえば、購入ボタンのCV数が非常に低いことはGoogleアナリティクスの画面を見ればわかる。だが「購入ボタンを押してもらえない理由」はなぜだろう。推測はできるが、前述のとおり、それはあなたのイメージでしかない。本当の理由を知りたければ、ユーザーに聞くしかないのである。
ここで、「なるほど、定性分析も必要だ」と思ったあなたは、もしかして世の中は定量的なものと定性的なものの二項対立だと思っていないだろうか。羽山氏は以下のように提唱する。
世の中の大部分は数えられない定性的なもの。その中の一部分が、数えられる定量的なものである。つまり、ユーザーを理解する最も基本的な方法は『ユーザーに会って話を聞き、行動を観察すること』なのです(羽山氏)
ユーザーに会ってみよう! そもそもどうやって会うの?
ユーザーを理解するための専門技術「UXデザイン・UXリサーチ」は、大まかには以下の4段階に分けられる。
- ユーザー調査をする
- 結果を分析する
- プロトタイピングする
- プロダクトにする
そしてまた、ユーザー調査をするといった具合に、1~4を繰り返していく。
まず、ユーザーに会うことが最初の関門だろう。特にBtoB商材の場合、なかなかお客さんに会えないという時代が続いた。そこで羽山氏は6つの方法を挙げた。おおむね「会うための手間はかかるが、いい話が聞けそう」な順になっている。
方法1営業担当者にお客様を紹介してもらう
実際に自社製品を使っている人に話を聞けるので、リアルだし、社内に対する説得力も非常に高い。営業担当者の顧客グリップ力が高ければ、いいヒアリング対象に高確率で会うことができる。ただし、お客様側で忖度して、本音を言ってくれない可能性もある点に注意が必要。
方法2既存顧客へのメールマガジンで募集する
「利用者アンケート」のメールを配信し、末尾に「インタビューにご協力いただけませんか」といった文言を入れておく。ただし、アポを取るためには相応の母数が必要になる。羽山氏の経験では、配信数8,000に対して、アンケート回答が100~200、実際にアポが取れるのは5人くらい。
方法3自分や同僚の人脈で条件に合う人を探す
自分やチームメンバーが主体で動ける方法。自社プロダクトのユーザーが見つからないことも多いので、競合製品のユーザーなどにも幅を広げて探すとよい。
方法4SNSで条件に合う人を探す
SNSのフォロワー数が多い場合は、SNSで募集する手もある。ただし、企業名や製品名を伏せるなどの配慮が必要。想定するユーザー属性に合う人を見つけるのは、かなり難しい。
方法5マッチングプラットフォームで探す
ユーザー調査のマッチングプラットフォームサービスを利用する。たとえば「uniiリサーチ」「ZERONE」のようなサービスがあり、低コストかつ短期間で協力者を見つけられる。
方法6リサーチ会社に依頼する
コストはかなりかかるが、外部の専門家のノウハウを活用できる。想定するユーザー像に合うよう、きちんと打ち合わせして調査してもらうことが重要である。
ユーザーインタビューは質問が肝! 意味のある答えを引き出す13の質問
ユーザー調査の代表的な方法は「ユーザーインタビュー」と「ユーザビリティテスト」の2種類ある。ユーザーインタビューでは、プロダクト作りに役立つ情報を得られないといけない。ここで注意すべきことは「人は本当にほしいものを言葉にできない」ということだ。
たとえば「どう思いますか」「何がほしいですか」という聞き方をすると、「みんなこう思うのではないか」「普通はこういうのが好まれる」という先入観で答えてしまう。
そこで「○○をするために、あなたは何をしましたか」「○○の時、どれを選びましたか」という聞き方で、ユーザーの過去の行動を調べる必要がある。それは実際にしたことなので、確かな根拠になるからだ。
また、本当のニーズを見つけるためには、ほしいものを訊くだけではなく行動の目的を訊くことが大切。質問の掘り下げ方によって、より的確なニーズを掴める。
ちなみに、羽山氏はインプレスが運営しているメディア『Think IT』の「UXデザインはじめの一歩 ーインタビュー技術を磨こう!」連載の中でユーザーインタビューの全文サンプルを無料で公開している。個人情報の入力も不要なので興味があれば見ていただきたい。
意味のある答えを引き出す13の質問
ここまで話したようにユーザーインタビューは意味のある質問が大切になってくる。しかし、はじめてユーザーインタビューに望む人には、そもそもどんな質問がいいのか勘所もない。羽山氏はユーザーインタビューでよく使う質問パターンを紹介した。
質問パターン | 質問例 | |
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1 | 直接的に理由を掘り下げる |
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2 | 曖昧な言葉を明確にする |
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3 | 時系列を確認する |
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4 | 他の選択肢をとらなかった理由を訊く |
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5 | 他に考えたことを訊く |
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6 | 話を具体的にする/話の続きを促す |
|
7 | あえてありえない選択肢について質問する |
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8 | それがないとどうなるのか訊く |
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9 | 言語化を強制する |
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10 | 矛盾している箇所について訊く |
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11 | 具体的な量を訊く |
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12 | 何と比較しているのか訊く/何を期待していたのか訊く |
|
13 | 自身はどう思ったのかを訊く |
|
『何のためにするのですか』『どうしてそう思ったのですか』のように、質問を重ねて背景を掘り下げるのが基本です。その他『○○というのはXとYのどちらですか』『○○はいつのことですか』など、できるだけ具体的な言葉を引き出します。また『YでもZでもなく、Xなのはなぜですか』『他にはどんな選択肢があったんですか』のように、別の選択肢についても聞くと、周辺の心理を見つけられます。一般論を話し始める人もいるので『ご自身はどう思われたのですか』と突っ込むのも大事です(羽山氏)
同時にユーザビリティテストも実施しよう
すでにプロダクトがある場合は、ユーザー調査の時間が90分あるならば、そのうち45分をユーザビリティテストに使うのもいい。たとえば「ユーザー登録をしてみてくたざい」とお願いして、実際に操作してもらおう。その様子を観察して、使いにくさやわかりにくさを見つけていく。
以前は、会議室に撮影機材を準備して別室で観察するなど、大がかりな環境が必要だったが、今はリモート会議ツールで手軽にできるようになっている。
先入観を排除して結果を分析する〜確証バイアスとの戦い〜
「ユーザーから聞き出したことを分析するのは確証バイアスとの戦い」と羽山氏は言う。確証バイアスとは、先入観に合う情報に意識がいってしまう認知の働きを指す、心理学の用語だ。つまり、さまざまな意見が集まったなかで、自分が「多分こうだろうな」と思ったことにマッチした内容に意識が行き、「やはり思った通りだ」という分析結果になってしまうことを指す。
ここで羽山氏はセミナー参加者にひとつの問いかけをする。「たとえば資格を取得するきっかけのユーザー心理にはどのようなものがあると浮かびますか?」
続けて「その仮説を頭においたまま、次のスライドを見てください。これは僕が実際にユーザーインタビューした結果をサマリーしたものです」と、1枚のスライドを提示した。
さて、あなたはいま『自分の仮説が当たった』と思っていますね。実はこの場にいる全員が『仮説が当たった』と思っています。資格を取得するきっかけの心理は大きく5つあり、このスライドにはすべてが含まれています。そのため、誰もが仮説が当たったと感じてしまうのです。それが問題なのです(羽山氏)
何かを選択するときの人々の心は、多くの場合いくつかのグループに集約できる。たとえば、資格取得のきっかけを調査すると、以下の図にある5種類の心理状態がある。
先ほど『自分の仮説は当たった』と思ったとき、あなたは自分の仮説以外の、見落としていたユーザー心理がいくつあったかに意識を払えたでしょうか。人間の目は、自分の仮説が当たるほどに曇ります。人間が人間のことを推測するので、仮説はかならず中途半端に当たるのです。それゆえに、かえって全体像を見失う。これが確証バイアスです(羽山氏)
資格取得のきっかけの心理を思い浮かべると、誰しもいくつかは思いつく。この中途半端に当たるというのがくせ者で、そのために自分の想像以外に目を向けられなくなってしまう。せっかくユーザー調査をしたにもかかわらず、自分の仮説の範囲だけが正しかったと思い込んでプロジェクトを進めてしまう。
ユーザー調査の結果を分析するときは、何が重要かをあらかじめ判断しないこと。出た話題をとにかく全部メモしておく姿勢が大切です(羽山氏)
ユーザーの心理を見つける親和図法
ユーザー調査の結果を分析する主な手法としては「親和図法」「上位下位関係分析法」「KA法(本質的価値抽出法)」がある。親和図法では、ふせんを使うのが一般的だ。今回は「ゲーミングディスプレイを買うきっかけ」を事例として、おおまかなステップを解説した。
親和図法・ステップ1カードに購入きっかけを書き出す
「ゲーミングディスプレイを買うきっかけ」をとにかく全部ふせんに書き出す。この時、単語だけでなく「動詞」を含めるのがポイントだ。
親和図法・ステップ2ユーザー心理毎にグループ化
書き出したカードを、ユーザーの心理として似ているものをグループ化していく。
親和図法・ステップ3グループを代表するカードを選ぶ
グループを代表するカードを選び、似ているグループ同士を囲んだり線でつなぎ、さらにグループ化していく。
最終的には次のような「ユーザー心理マップ」ができあがる。心理としては、5パターンの声があることがわかった。
混沌とした大量のデータをひたすらグルーピングしていく親和図法。全体像が見えるのは作業が7~8割終わってから。それまでは何十枚、何百枚というふせんとの、何時間にもおよぶ睨み合いである。
「いわゆる『頭がよい人』ほど、この作業に耐えられない傾向にある」と羽山氏は苦笑いする。自分が正解にむかっているのか確証がもてないまま、何時間も作業を続けるのは、効率よく正解を見つけることに慣れた人にとっては、想像以上にプレッシャーなのだ。
プレッシャーに負けた人がやってしまいがちなのが、フレームワークを使った分類である。なんとなく全体を眺めて「縦軸にxxを、横軸にxxをおいて整理しよう」というように、すばやく正解にたどりつこうとする。
羽山氏は「枠組みはあまりよろしくない」と警告。人の心理は、枠組みでは理解できないものだからだと言う。親和図法の大家である川喜田二郎の著書には、親和図法のワークショップ中にフレームワークで整理をはじめたチームに割って入り、ふせんをバラバラにしてしまったエピソードが紹介されている。「定性分析は、混沌を混沌のままに統合するのがコツ」と羽山氏は語る。
ユーザー心理をシナリオ化しよう
ユーザー心理マップができると全体を俯瞰できるが、複雑で大きなマップはそのままプロジェクトの資料として参照するには不便だ。そこで、心理グループごとのシナリオに書き起こすことがおすすめという。A4で1ページくらいのシートにしておき、プロジェクト中はことあるごとに参照できるようにしておこう。
シナリオ化までいくと『これを押さえないとユーザーに価値が届かない』という重要なポイントが何カ所かあることに気づきます。それをクリアするためにすべきことを書き出し、解決していけばいいです。とりあえずプロトタイプを作って目に見える状態にすること。目の前に物があれば、矛盾やもっと詰めるべきところが見えてくるでしょう(羽山氏)
つくって壊してまたつくる
できれば、プロトタイプの段階でもう一度ユーザビリティテストをするのがおすすめだ。しっかり考えたつもりでも、実際にユーザーに触ってもらうと抜けがあることも多い。その修正を繰り返し、プロトタイプで検証して、ユーザーに価値を届けられることを確認できたら、プロダクトに反映する。
また、リリースして終わりではなく「本当にユーザーの課題が解決されているか」「新たな課題が生まれていないか」「次に解決すべき課題は何か」など、次のUXデザイン・UXリサーチのサイクルを回すことが重要だ。
羽山氏は「何より伝えたいのは、ユーザーを理解する最も基本的な方法は、とにかくユーザーに会うこと。そして話を聞いて行動を観察すること」だとセッションを締めくくった。
本セッションの資料は Slideshare にて公開されている。 https://www.slideshare.net/storywriterjp/uxux-251258738
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