日本のピンタレストはコミュニティ作りとパートナー獲得からスタート、発見と実現をサポートするインタレストグラフ
写真共有SNSとしてかねてから注目されていた「ピンタレスト」の日本法人が2013年10月に設立され、11月12日に日本語版サービスがスタートした。米国でのサービス開始後(2010年3月)から注目してきた人もいるだろうが、「ピンタレストってなに? おもしろいの?」という人も多いのではないだろうか。
ピンタレストとはどんなサービスなのか、企業活用のチャンスはあるのかなど、ピンタレスト・ジャパン代表取締役社長の定国直樹氏にサービスの特徴や日本での展開についてうかがった。
発見と実現をサポートするのがユーザーとの約束
――ピンタレストは写真共有SNSというイメージがありますが、どんなサービスですか。
そもそもピンタレストとは何かと聞かれたときには、よくグーグル検索と比較して説明します。グーグル検索のすばらしさは、今日の天気はどうなのか、近くにカフェはあるのかなど、知りたいことが具体的にわかっているときに、瞬時に答えを導いて関連するサイトを教えてくれることです。
一方で、「今のリビングルームをもっと良くしたい」「次の春休みに家族で何かしたい」といった、具体化されていないことにはうまく答えられない。自分が何をしたいのか、何を求めているのかもわからないような質問に対して、答えを発見していくことをサポートするのがピンタレストというサービスだと思っています。
写真共有サービスだとか、Facebookの次のサービスですかとよく言われますが、ピンタレストはインタレストグラフベースのプロダクトであって、ぜんぜん違うと思っている。ソーシャルグラフとはまったく別で、ユーザーにお約束しているのは、「新しいことを発見してください」「そして発見から何かしらを実現してください」という2つのことだけです。
発見と実現の2つを約束していることが、プロダクトの特徴になります。
――一言で表すとすると、どんなサービスになるでしょうか。
その質問は、実は私にとって一番難しくて、チャレンジだったりします。このツールを使って、「何か新しいことを発見し、実現してください。それができるプロダクトです」と抽象的に言うことはできますが、何かに例えてピンタレストがこれなんですよ、というのは実は見つかっていないので、それを見つけることが私の宿題でもあります。米国では、コルクボードに家族の写真を貼る習慣があるので、“ピンする”と直感的にわかる文化があるのですが、日本ではあまりない。
あえて言葉にするなら、オンラインのデジタルスクラップブックでしょうか。感性の合うものを切りぬいていく、そのオンライン版というのが近しいといえば近しいですね。
――インタレストグラフとソーシャルグラフの違いはどこにありますか。
ソーシャルグラフには、過去を見て、過去に何か起こったことを友だちに伝えるという2つの側面があります。
対してインタレストグラフは、未来を描いて、未来に対して何かを発見していきます。発見したことは友だちに伝える必要はなく、自分にとっての学びであればよいため、自分中心のプロダクトだといえます。過去と未来のどちらの方向を向いているのか、伝える相手が友人なのか、それとも自分さえわかっていればよいのか、それが最大の違いだと思います。
ゆえにプロダクトの設計もまったく違っています。過去に何か起きたことを伝えるには、瞬時性が大事なので、フィードが流れていくフロー型のデータを持っている必要がある。実際、TwitterやFacebookはそういう形になっています。
未来に対して何かを発見していくということは、知見をどんどんためていく必要があるため、インタレストグラフのデータとしてはストック型がふさわしく、ピンタレストのデータもストック型になっています。アカウント全体があって、自分の関心ごとが、たとえば私ならオートバイやファッション、ガーデニングといったボードの中にピンが貼られている。ピンがたまっていくのはストック型なので、インタレストグラフにふさわしいプロダクト設計になっています。
――ピンタレストが発見や実現をサポートするとはどういうことでしょうか。
ピンタレストのボードを近しい言葉に置き換えると、「興味関心ごと・インタレスト」になると思います。インタレストは各ユーザーによって定義されていると思うのですが、ピンタレストのおもしろいところは、ボードが他の人とどんどんつながっていくところです。
私がよく、「ピンタレストはインタレストグラフなので、ボードをフォローした方がおもしろいですよ
」と会う方に言う理由は、まさにそこにあります。ピンタレストは、ユーザーよりもボードをフォローすることで楽しめるサービスだと思います。ボードとボードがつながるということは、インタレスト単位でつながることで、インタレストがネットワーク化されてインタレストグラフになる。
あるピンに対して、「他の方ではこういうボードにピンされていますよ」といったように、他の方のボードを明示的に見せることで、ボードを訪問して新しい発見ができるかもしれないし、より関連性の高いピンから新しい発見があるかもしれない。こうした発見がハッピーにつながると考えています。
ソーシャルグラフとはまったく違うので、人をフォローしてもあまり意味がない。そこは弊社としてもしっかり伝えないといけないと思っている部分です。
ピンタレストは人をフォローするのではなく、関心のあるインタレスト(ボード)をフォローすることで楽しめるサービス
米国では5人に1人の女性が利用、日本はスタートラインに立ったばかり
――ピンタレストの近況について教えてください。
特定のだれかということはなく、広いユーザー層の方が利用しています。米国では5人に1人の女性がピンタレストを使っている(Pew Internet & American Life Project調査)という実績もあり、一般には女性に寄っていると言われていますが、興味関心ごとがある人であればだれにでも使ってもらえます。
ただ、米国では「ファッション」「ホームデコレーション」「DIY・クラフト」「フード・ドリンク」の4つのカテゴリがすごく盛り上がっていて、これらのカテゴリに興味関心のある方が多く利用していると思います。
――日本のユーザー推移はどのようになっていますか。
弊社からはユーザー数を発表していないのですが、コムスコアの発表(2013年10月時点)では、グローバルで約5330万人になります。日本は言葉の壁が大きく、ようやく日本語版をだしたばかりなので、ここからだと思います。
ビジュアルで視覚に訴えかける
――ピンタレストのインタレストグラフのなかに入ることで、企業はどんなコミュニケーションができるでしょうか。
ピンタレストはビジュアルベースで視覚に訴えていくことができるプロダクト、プラットフォームだと思います。いろんなビジネスユーザーの方がサービスを活用してプロモーションをかけていますが、単純に売りたい商品を紹介するのではなく、プロダクトの背景にあるストーリー、あるいは会社全体のブランド訴求を行う会社も多い。ストーリーやブランドを伝えるのに活用されているのが、個人的にうまいと思います。
ビジュアルで視覚的に、プロダクトの背景にあるストーリーやブランドを訴求していくことができる
――企業アカウントで、実際にうまく使っていると定国さんが思うものはありますか。
ニーマン・マーカスというファッションブランドのボードの1つですが、新しいコレクションを発表する場としてボードをうまく使っています。ボードを上から下まで眺めたときに、すべてが彼らの売りたい商品というわけではなく、なかには服とは関係ないものもあるのですが、なぜ今年の秋冬コレクションはこういうデザインになったかということを、ビジュアルで訴えようとしています。
このボードを見たユーザーは、お店で買うときにも、その裏にはこういったデザインコンセプトがあるんだと理解しているはずですし、単純にテキストで説明する以上のものを瞬時に理解できると思います。
日本ユーザー向けでは、H.I.S.さんのキャンペーンがおもしろい。旅行したいと思う場所をピンタレスト上で募集しています。
普通、旅行先を選ぶにはアジアに行きたいといったように場所から選ぶものですが、彼らの発想はそうではなくて、自分がいつか旅行してみたいと思う場所をテーマ色ごとのボードに作品としてまとめている。ぱっと見て、それがどこかはわからなくても、オレンジのテーマからロマンチックな夕陽を見ようといった刺激を受けたり、青のテーマから海を見て過ごそうといった刺激を受けることで、次の旅行先を考えていく。
グローバル企業のなかでは、うまく使っている会社はたくさんあると思いますが、まだ日本語版を発表したばかりなので、日本国内のユーザーに向けてというのは少ないですね。日本ではこれまで、パートナー企業がユーザーに何か訴求したいと思ったときに相談する相手もいなかったし、事例もなかった。日本法人を用意しましたから、これからサポートしていければと思う。
日本のスタートはこれから。日本法人として国内のパートナーをサポートしていく
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