PARTYのクリエイティブディレクター川村氏が大切にしているブランディングのポイント

Webはコミュニケーションのハブ
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川村 真司氏
株式会社 パーティー
ニューヨークオフィス
エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
川村 真司氏

Webブランディングを検討するときに、まずは目を惹くビジュアルのWebサイトを参考にするだろう。Web担当者なら、「あの会社のWebサイトはかっこいい」とか、「UIがよくできている」など、自分の頭のなかに、参考にしているWebサイトがいくつもあるはずだ。そしてそのなかには、PARTYが手がけたWebサイトが入っているかもしれない。PARTYは、いま国内外でもっとも注目されている「クリエイティブ・ラボ」だ。PARTYのWebブランディング術とは、どんなものだろうか。

今回は、PARTYの創設者のひとりであり、同社のニューヨークオフィスで活躍中の川村氏に、Webブランディングのポイントと、ブランディングにおける文字や書体の重要性について語っていただいた。

Webはブランドへの「入口」
自分が使うべきツールやテクノロジーは知るだけではなく自ら試す
最初のコミュニケーションツールは、言葉であることが多い
文字でなくては伝わらない情報もある

デザインファームでもエージェンシーでもない「クリエイティブ・ラボ」

――これまでの代表的なお仕事と、今どういうお仕事をされているのか、かんたんにご紹介いただけますか?

はい。いま僕は「PARTY」という会社のニューヨーク(NY)オフィスの運営と、クリエイティブ責任者をやっています。もともと「PARTY」は2011年に、5人のクリエイター(編注:伊藤 直樹氏、清水 幹太氏、中村 洋基氏、川村 真司氏と、今は脱退した原野 守弘氏の5名)によって、東京でスタートしました。テクノロジーと物語をうまく融合して人の心を動かすような体験を作ろうと、いろいろ実験しています。ゆえに、エージェンシーではなく「クリエイティブ・ラボ」と自分たちでは呼んでいるんです。

全体のうち、50%ぐらいは広告代理店的な仕事、残りの50%は、企業向けのR&Dというか、プロトタイプや新規商品開発的なことや、アートや、自社プロジェクトに充てている感じです。

――デザインファームとは違うんですね?

デザインファームの具体的な仕事内容が判らないのですが、僕らは企画やデザインだけでなく、デジタル・プロダクションとしての機能も持っていますし、映像から広告プロモーション、コンセプトカーや空港などまで幅広い領域のクリエイティブ開発を行なっています。

たとえば、トヨタさんは初期からずっと一緒に広告関係のお仕事させていただいていますが、近年だとコンセプトカーの企画開発や、モーターショーの展示プロデュースなどにも携わらせていただいてます。

今は拠点がアメリカなので、MTVやGoogleといったこちらをベースとするブランドのキャンペーンもやらせていただいてます。

MTV White Squad

また、広告にこだわらず、いろいろなジャンルの制作をやっていて、最近では安室奈美恵さんのミュージックビデオを手がけて2カ月で1,000万回も再生されたりしています。

――ブランディング戦略、コミュニケーション設計において、デジタルやリアルの複数のチャネルを当然のように組み合わせて総合的に設計している印象ですが、ブランディングの考え方は時代とともに変わってきているものなのでしょうか?

変わっている部分もありますが、根幹は変わっていません。ブランディングって何かというと、その商品やその会社をどう好きになってもらうか、それでしかない。ただ、ツールやアプローチがメディアの進化にともなって変わってきているということだと思います。

――最近Webのほうで、カスタマーエクスペリエンス(CX)、つまりどのチャネルでもユーザーと同じようなコミュニケーションをすることが大事だという考え方が出てきています。CXで言われているようなことは、川村さんは昔からブランディングとしてやっているということでしょうか?

やっていること、というか、やろうとしてきたことです。どのタッチポイントにおいても、ちゃんとブランディングを統一する。それがグローバル化とクロスメディア化、接するポイントの多様化でより意識されるようになったということなんだと思います。

コミュニケーション・ハブとしてのWebサイトという考え方

――川村さんはWebばかりやっているわけではないと思いますが、ブランディングという観点で言うと、いまWebサイトはどういう役割を果たすのが適したチャネルなのでしょうか?

難しいですね。ケースバイケースだと思います。何となく思うのは、「情報が集約されている場所」「ハブ」「起点」として、ともかくそこに行けばブランドに関する情報がすべて手に入るという、入り口と終着点の両方としての機能というのが、いちばん大きいんじゃないですかね。

――「コミュニケーションのハブ」という言い方でいいですか?

いいと思いますよ。僕はそういう見方をしています。

ただ近年は、モバイルやソーシャルが過剰に騒がれすぎていて、あまり情報の集約を好まないブランドや企業も出てきています。つまり、Facebookだったり、YouTubeのチャンネルだったりという既存のプラットフォームで情報発信していればいいじゃないか、という考え方です。

しかし、そういうプラットフォームでは、ブランドのトーン&マナーだったり企業の姿勢をきちんと描ききれないことも多い。そういう意味でも、実店舗においては「フラッグシップストア」と呼ばれるものがブランドの旗艦として存在しているように、そのオンライン版が企業のWebサイトという考え方がシンプルなんじゃないかな、と思います。

――企業の自社サイトはデジタルのフラッグシップであり、ハブということですね。

企業のブランドサイトを作る場合はそういうイメージです。プロモーション、キャンペーンの場合、コミュニケーションは多チャンネル化して、常時いろんなメディアを横断して実施されています。だからプロモーションサイトには「企業のブランドを伝える場所」という機能ではなくて、それらをつなぐ機能、それらにアクセスするための情報が集約されている機能を持たせるということですかね。

多様化するコミュニケーションに応えるクリエイティブ

――多チャンネル化するメディア環境において、どういうコミュニケーションを設計して、どういうクリエイティブを作るともっとも効果を発揮できるのかという感覚は、どうやって磨いているんですか?

あまり意識して磨いている気持ちはないです。ともかく実験と検証をする気持ちでたくさん作り続けるしかないような気がします。ただ半分趣味ですが、普段からなるべく、自分が表現するメディアや、自分が使うべきツールやテクノロジーについては、自分でちゃんと使っておくようにはしておきます。なんとなく知っているのと、実際使ってみるのは違う。日常の中で使っているとそういうのはおのずと見えてくることだったりするので、そういう磨き方しかないのかなと思っています。

学生の人とか、デザイナーになりたての人とかによく話すんですが、自分が気持ちを惹かれたものに対して、なぜ気持ちを惹かれたのかということを自分なりに言語化してみたり、その構造を分解して要素還元して考えてみたりすると、少しずつだけれど、自分のなりのルールというか、メディアに対する接し方を含め、そういうのがなんとなく見えてくるとは思うんですよね。

――川村さんは、映像を使われることも多いと思いますが、映像によるコミュニケーションと文字によるコミュニケーションの違いをどのように使い分けていますか?

グローバルな仕事をしていると、言語に依存した表現よりも、やっぱりビジュアルで伝えられるコミュニケーションのほうが早い。使用言語も地域も国籍も関係ないし、スピードが速く届くので、そちらを優先したくなることも多い。

ただどうしても文字でなくては伝えられない情報もあります。言語って、密度の高いビジュアル要素という見方もあると思っています。意味が1つの造形に込められていて、そこだけすごく情報濃度が高くなるんです。書体を選ぶときには、濃度が高いんだけれど、他とのビジュアルのバランスがきちんと取れている書体って何だろうと考えて選びます

文字はもちろん造形よりも、意味のほうが重要なんですが、それを伝えるためのルックスがその他のビジュアルランゲージとずれていると、そのことを話しているようには聞こえなくなっちゃう。しゃべっている内容と声色のバランスに近いかもしれません。

ブランディングにおけるフォントとは

――日常的にWebサイトを見ていたり、ツールを使ったりして、そのデザインやフォントは気になりますか?

気になりますね。Webに限らないことですが、単純にポスターを見ていても、これはうまいなとか、これはあれをベースして作ったロゴだなとか、そういうのは気にはなるし、うまくいっているものはすごい目を奪われます。

文字やフォントは根本的に大事なものなのに、見落とされがちです。絵や写真にばかり気を取られて、意外と気にしないデザイナーもいますしね。具体的な情報のコミュニケーションってどうしても言葉に頼ることが多いですよね。文字や書体は言葉を伝達するための記号なので、ブランドにとってとても大事です。そこが入り口でもあり、出口でもあって、最後の最後にブランドの世界に命が宿るかどうかが決まる要素になる気がしています。

すごく考え抜かれた、完成度の高い世界観を作れるか作れないかは、書体の選び方にかかっているとも言えます。そこがちゃんと締まっているブランドは、佇まいに品格というか姿勢が映し出されている気がします。それは別に僕がデザイナーだからというわけだけではないと思います。

――それは、無意識に接している普通のユーザーにも伝わるものでしょうか?

確実に伝わると思います。文字情報によって得られる物語があるわけで、それを透明な存在でありつつちゃんと表すというか。普通に読んでいる人は文字として読んでいるんだけれど、そこでいかに目との摩擦が少なくなるか、伝えたい世界との齟齬がないかって、僕はけっこう重要だと思っています。うまく言語化できないですが、確実にブランディング的に効いている部分ではないかなと思います。

――よくできているフォントであればあるほど、ユーザーにその存在を感じさせない、ということになるんでしょうか?

僕の考え方だと、そうなります。それが僕は究極だと思っています。

もちろん、ロゴなどは目にきちんと焼き付いて残らないといけないものだったりするので、また発想は違うんですけど、ボディコピーだったり、メインのテキストとして使うフォントは、僕はそういうほうが美しいと思います。目との摩擦を計算できているようなフォントをみつける/つくるっていうのが理想です

――最近は、デバイスが高精細になってきていて、細かいところまで目が行くので、クリエイターの方は、フォントも含めて、デザインのディテールまでこだわることが、もっと大事になってくるのかなと思いますが?

すごく大事だと思います。オンラインメディアの使用が日常になってきているので、そういうときにどういう書体が使われているのかはとても大事です。

書体だけでブランディングが成立するかというと、そういうことではない。総合的に見てその中での文字の立ち位置ということをベースに選ぶし、だからといって、フォントへの意識が足りなかったら、全体のデザインとしては、間の抜けたものになります。

もちろん書体がブランディングの真ん中に来るような表現というものもあります。特にメッセージを発信する人にとっては、言葉と意味がすごく中心になってくるから、そういう場合は、書体が主役になるケースもある。文字というのは、それぐらい強さを秘めている物体なので、表現によっては、その主従が、ビジュアルが主で文字が従ということもあれば、文字の書体選び、もしくはオリジナル書体自体が主になるというケースもあるとは思います

ただ、時には作り手が考えすぎているわりには、ユーザーはあまり気にしていないということもある気がしています。スーパーの折り込み特売チラシのように、デザインされていない(ように見える)ほうが費用対効果が高い場合もあります。でも逆に緻密に計算して作られている世界を表すためには、ちゃんと書体選びをしていないと、輪が閉じない、完成しないということにもなります

――最後の質問です。Web担当者Forumの読者は、クリエイターより広告主側の担当者の方が多いんですが、発注側の人がブランディングやデザインやフォントに関して、意識しておくべきこと、気をつけたほうがいいことはありますか?

川村 真司氏

難しい言い方になるのですが、アートディレクターとしてはトーンを重視したいという気持ちがある一方、モバイルが重要になってきている現在、デザイン主導にこだわりすぎるよりも、UI/UX的に正しい判断をしていただいたほうが、僕はいいんじゃないかなと思います

理想を追求しつつ、ブランドの範囲からは逸脱せずに、ユーザビリティに配慮した設計をするということが大事だと思います。

※このページはモリサワのWebフォントサービス「TypeSquare」の「黎ミン」「新ゴ」「ゴシックMB101」を利用しています。

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