Googleアナリティクス期待の新機能「ユーザーエクスプローラ」を徹底解説
Googleアナリティクスで、ユーザごとに「どの順番でページを見て、コンバージョンしたか」などを確認できる「ユーザーエクスプローラ」という新しい機能が2016年4月にリリースされた。これは、これまでのGoogleアナリティクスでは確認できなかったデータだ。本稿では、この新機能の仕組みや見方から、B2C・B2Bサイト別の実際の活用方法までを徹底解説する。
ユーザーエクスプローラは3月下旬から確認され始めていたが、4月11日のリリースノートで正式にアナウンスがあった。
- Analytics Release Notes for April 11, 2016(英語)
https://support.google.com/analytics/answer/6392777
ユニバーサルアナリティクスと従来のGoogleアナリティクスのどちらの環境でも、設定やカスタマイズなしにユーザーエクスプローラのレポートを利用できる。なお、すでにヘルプも英語版で存在している。
- User Explorer(英語)
https://support.google.com/analytics/answer/6339208
待望の行動明細を見られるレポートが登場
ユーザーエクスプローラは、Googleアナリティクスで個々のユーザーの利用行動の明細を見ることができる機能だ。「ユーザー」とは、正確にはCookieで識別した個々のブラウザのことを指す。これまでGoogleアナリティクスには「どの人がどのページを見た」といった一番細かい粒度で見られるレポートがなかったが、それが実現できるようになった。
もちろんこの「どの人」というのは匿名になっていて、社名や名前がわかるわけではない。レポートで表記されるのは「クライアントID」と呼ばれるものだ。Googleアナリティクスは、Cookieの中に格納されている固有のIDによって個々のユーザーを識別する。その固有のIDであるクライアントIDをレポートの表示にも利用している。
もともとあったデータ収集の仕組みで取得している情報を利用しているため、集計処理だけで実現でき、そのため利用者側でカスタマイズの設定が不要で利用できるのだ。
ユーザーエクスプローラのレポート
ユーザーエクスプローラのレポートは「ユーザー」セクションの配下にある(図1赤枠部分)。クライアントID別に(図1青枠部分)6つの指標を(図1緑枠部分)見ることができるレポートだ。
初期状態では、集計対象期間中で訪問回数(セッション)が多いユーザーの順に並んでいる。実際にこのレポートをどう見ていくかというと、主に次の2つになるだろう。
- 上位のヘビーユーザーのクライアントIDをクリックして明細を見る
- セグメント機能(図1黒枠部分)で「コンバージョンしたユーザー」などの条件で絞り込んだうえで、気になったクライアントIDをクリックして明細を見る
明細を見られるのは2016年3月9日以降のみ
なお、集計対象期間は2016年3月9日以降しか選択できない。ヘルプにもそう明記されているので、今後もこれ以前のデータでは利用できないだろう。レポート右上にある集計対象期間を選択する箇所(図2赤枠部分)をクリックしてカレンダーを表示すると、2016年3月9日(図2青矢印の先)より前はグレーアウトしていて選択できないのが確認できる。
現時点ではまだわからないが、このレポートはユーザーベースになるので、ユーザーベースのセグメントなどと同様に集計期間は最大93日が限度になることが想定できる。また、現時点でこのレポートをベースにカスタムレポートを作成することはできず、一覧表示でセカンダリディメンションを指定する機能と検索機能もない。
セグメント機能は使えるが、同時に複数セグメントでの表示ができないため、表示したいセグメントをクリックして表示を切り替える必要があることに注意しよう。
ユーザーの行動が時系列で表示される
個々のクライアントIDをクリックすると、図3のようなレポートが表示される。左側の上部には初回訪問日とそのときの集客チャネルとデバイスカテゴリが表示(図3赤枠部分)されている。なお、集計期間内における最初の訪問ではなく、計測開始から通算して最初の訪問の情報となるので間違いのないようにしよう。
その下(図3青枠部分)はカスタムディメンションなどを指定していた場合に表示されるもので、これが初回訪問時の状態を示しているのか最新の状態を示しているのかは現状よくわからない。左の一番下(図3緑枠部分)は図1のレポートに戻りたいときに、クリックするためのリンクだ。
さて、レポートの中身を、図3を例に解説しよう。
- このユーザーは4月5日と4月12日に訪問があった(図3黒枠部分)
- 同日に複数のセッション(訪問)がある場合、区切り線(図3赤点線矢印)があればそれがセッションの区切りになる。図3では2016年4月12日の1行目と2行目の間に区切り線があるので、上の1行で1セッション、下の3行で1セッションということ
- 全体では、4月12日は2セッション、4月5日が1セッションで、計測期間内では合計3セッション(図3青点線枠部分)
残念な点が3つある。
- 各セッションの参照元の表示がない
- 各セッションの滞在時間の表示がない
- 個別明細の出力ができない(エクスポート機能がない)
1つ目に関しては、Googleアナリティクスの参照元が特殊な仕様であることも関係していると思われるので、仕方ないかもしれない。今回の話とは関係ないが、参照元については次の記事を参照してほしい。
- じつは特殊なGoogleアナリティクスの「参照元」(衣袋教授のGoogleアナリティクス入門講座)
http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2012/09/27/13735
全体のセッションを見たら、続いて1つのセッションについて注目していく。
ユーザーの行動は4つのマークで示される
先述した通り、区切り線で区切られた部分が1つのセッションだ。まず年月日の横にある数字(図4赤枠部分)は、この日のレポート表示対象の総数だ。図4の例で説明すると、明細は3行(図4青枠部分)で表現されているので、数字は「3」(図4赤枠部分)となる。
明細で表示される項目には、次の4種類がある。
- ページビュー
- イベント
- 目標
- eコマース
目のマークがページビュー、ベルのマークがイベント(図4黒枠部分)といった具合だ。これらの対応は、その上の「フィルタ条件」のプルダウン(図4緑枠部分)を選択すればわかる。
つまり図4のセッションは、1ページビュー、2イベントがあったことを表している。そして各行(図4赤点線枠部分)では、「何時何分にどういうページビューがあったのか」「何時何分にどういうイベントが発生したか」が表示されているといった具合だ。
「フィルタ条件」のプルダウンを選択(図5赤枠部分)した画面が、次の図5だ。標準では4種類の項目が全部選択されているが、たとえばイベントが大量にあってページビューだけを見やすく確認したい場合などに、チェックを外して表示対象を絞り込める。
右にある「並べ替え」は標準では「降順」になっており、最近の利用が上にくるようになっている。ここで「昇順」を選択すると、明細を古い順に並べ変えられる。
各ページビューやイベントなどの明細を開く
さらに各行をクリックすると、該当するページビューやイベントなどの明細が表示される。これが一番細かい情報になる。図6は2つ目のイベントの行(図6赤枠部分)とページビューの行(図6青枠部分)の2つをクリックして展開した状態だ。
上から順に見ると、イベントに関しては「イベントカテゴリ」「イベントアクション」「イベントラベル」「イベントの値」が表示される(図6緑枠部分)。ページビューに関しては「ページのURL」と「ページのタイトル」が表示される(図6黒枠部分)。
残念なのは、複数ページビューあった場合に、それぞれのページビューの滞在時間を秒単位で表示してくれるわけではないので、分単位のレベルでしかわからない点だ。つまり同じ1分の表示が続いていても、そのページの閲覧時間が1秒なのか59秒なのかわからないということだ。
ページタイトルでまとめられてしまうことに注意
気をつけたい部分として、ページタイトルが同じものはまとめてくくられてしまう点がある、URLや内容が異なるページでも、タイトルが同じページの閲覧が続いた場合、同じページをリロードした場合などは1つの項目にまとめられてしまう。
グルーピングされた状態が次の図7だ。これは同じページをリロードしたケースなのだが、項目のマークの横に、グルーピングされた階層を開く三角形のマーク(図7赤枠部分)がある。その行の右端にある数字は(図7青枠部分)、その中に何ページビュー存在しているかを表している。2つ目の「2」と書いてある項目を展開してみると、確かに2行分の明細が表示された(図7緑枠部分)。ページタイトルが同じ場合はこのようにまとめられてしまうのだ。
その場でセグメント条件を作ることもできる
このレポートで表示されている、特定のページの閲覧や特定のイベントなどを条件にして新しいセグメントを作成することができる。各明細行の一番左にあるチェックボックス(図8赤枠部分)をチェックして、その上にある「セグメントを作成」(図8青枠部分)をクリックしよう。すると図9のようなセグメント条件の確認画面が表示される。
セグメントの名前を付けて(図9赤枠部分)、その他のオプションなども確認して「保存」(図9青枠部分)をクリックしよう。ここでは、イベントとページタイトルのAND条件(両方を満たす)のユーザーベースのセグメントが作成される。
注意すべきなのは、ページ閲覧の条件はURLではなくページタイトルでしか設定できない点だ。URLで指定したいなら、普通に通常のセグメント機能の方から、新規セグメント作成をする必要がある。
ユーザーエクスプローラをどのように活用するか?
「ユーザーエクスプローラ」レポートの見方は以上だ。では、このレポートを実際にはどのように活用すればよいのだろうか? 個々のユーザーの動きをつぶさに見ることができるので、定量的に傾向をみるのではなく、個々のユーザー行動の理解を行うという使い方になるだろう。つまり、定性調査として使うのだ。具体的には下記のような使い方が考えられる。
B2CのECサイトなら購入/非購入ユーザーの行動の差を見る
たとえばB2Cのeコマース商材を扱っているサイトなら、トランザクション(購入)のあったユーザーの利用行動明細を見てみよう。具体的には「ユーザーエクスプローラ」レポート(図10)でトランザクション数(図10赤枠部分)でソートする。そして下記の代表的なユーザータイプから1人か2人ピックアップして、そのクライアントID(図10青枠部分)をクリックして、それぞれの行動明細を確認しよう。
- A: トランザクション数もセッション数も多いユーザー
- B: トランザクション数は多いが、セッション数は比較的少ないユーザー(Aより効率よく購入している)
- C: トランザクション数は0だが、セッション数が多いユーザー
見るポイントは、それぞれ次の通りだ。
タイプAのユーザーは購入(トランザクション)セッション時と非購入セッション時でどのような行動の差があるのだろうか?
→何が購入の後押しをしているのか、それをもっと訴求できないか
タイプBのユーザーの閲覧行動は、タイプAの冗長な購買行動とどこが違って、効率よく買い物をしているのだろうか?
→もっと効率よく購買してもらえるようにするヒントはないか
タイプCのユーザーは本当に買う気があるサイト内行動をしているのだろうか?
単なる調べものユーザーなのか、それとも自社あるいは競合他社やその関係者による巡回なのか?
→競合他社が関心を寄せている商品カテゴリや商品は何なのか、価格情報を調査しているのだろうか
他にも、次のような軸で見てみるのもよいのではないだろうか。
- 「収益(売上高)の多い順」にソートし、高額購入ユーザーの動きを見る
- 「平均セッション時間の多い順」にソートし、トランザクション数のない、長時間ウィンドウショッピングを行うユーザーの動きを見る
B2B商材ではユーザーの態度変容を追う手がかりに
別のケースも考えてみよう。たとえばB2B商材で衝動買いの少ないビジネスなら、問い合わせなどコンバージョンしたユーザーを抽出して、「何度訪問してきたか、それぞれの訪問(セッション)で見たページに変化があるか」といった、態度変容を追っていく見方が有効ではないだろうか。
具体的には、「ユーザーエクスプローラ」レポートで「コンバージョンに至ったユーザー」セグメントを適用しよう。適用後、該当する件数が少なかったら、すべてのクライアントIDの明細を見て、1人1人のコンバージョンまでの経緯を追体験してみよう。
ユーザーの気持ちになって追体験することで、「そんなページまで見ているのか」とか「料金表も規約も見ずに申し込みするのか」とか、ユーザーの思いがけない挙動が見えてくるだろう。「モバイルでこんなページも見ているのか」のように、具体的にページ内容や操作性の改善につながる発見もあるかもしれない。
他には、サイトのコアターゲットの性別や年齢などの属性、地域、利用デバイスなどが明確になっている場合に、そのセグメントに絞ったうえで、ターゲットの中でも特にヘビーユーザーの行動を追っていくといった利用方法も考えられる。
ただし、明細データは時間がいくらあっても見きれるものではないので、上記のようなユーザーに当たりを付けたうえで、集中して効率よく見てほしい。直帰ユーザーやセッション数が少ないユーザーなどの薄いユーザーの明細をたくさん見ても得るものは何もないので、こうしたユーザーは無視して構わない。
クライアントIDはまだ自由に扱えない
最後に、クライアントIDの値を使えない機能がいくつかあるので紹介しておこう。いずれは対応してくれるものと期待しているが、今のところ次の機能は利用ができない。
- カスタムレポートのディメンションにクライアントIDを指定する
- セカンダリディメンションにクライアントIDを指定する
- セグメントの条件にクライアントIDを指定する
- フィルタのフィールドにクライアントIDを指定する
簡単に言ってしまえば、クライアントIDはレポートの軸や絞り込み条件として自由に使うことができないので、生データに近い形でのレポートは見ることができない。
しかし、これまで標準では顧客分析ができなかったので、大きな進歩だといえる。これから使える機能も増えてくるに違いないので、まずは1人でいいからコンバージョンしたユーザーを選択して、レポートから何か「気づき」があるかどうか試していただきたい。さっぱり気づきにつながらなさそうであれば、現状は無理してこのレポートに時間をかける必要はないだろう。
ちなみに今回のレポートで表示される「クライアントID」は、ユニバーサルアナリティクス独自の機能である「User-ID」とは関係ない。User-IDは、同一人物が複数のブラウザやデバイスからサイトを利用する場合に、そのサイトへのログイン時などに取得できるログインID情報によって、異なるブラウザやデバイス利用を名寄せする機能だ。つまり、通常はブラウザ単位でユーザーを識別しているところを、ログインID情報を使って同一ユーザーであることを識別する仕組みのことで、クライアントIDとは直接関係がない。
関連があるとすれば、ユニバーサルアナリティクスでUser-IDを利用している場合は、User-IDビュー(User-IDが検出されたセッションからの分析データを表示する専用のビュー)の[ユーザー]>[ユーザーエクスプローラ]レポートが、「クライアントID」ではなく「User ID」ベースの表示になる(図11赤枠部分)という点だ。つまり、ブラウザ単位の「クライアントID」の代わりに、異なるブラウザやデバイスをまたいだ「User ID」ベースの明細を見ることができるようになる。
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