[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

器用貧乏はマーケターにとって強みである――と考える私が仕事で大事にしている4つのこと

今回は、新たに連載メンバーに加わったIndeed Japanの各務浩平氏。これまでのキャリアで大事にしてきた4つの事柄を紹介する。

こんにちは。Indeed JapanでDigital Marketing Managerをやっている各務と申します。以前にWeb担当者Forumに寄稿させていただいたときには、大手インターネットサービスプロバイダ(ISP)で働いておりました。縁あって2019年2月よりIndeed Japanに入社し、デジタルマーケティング業務に携わっております。現職で3社目になります。

さて、このリレーコラム、初回は自己紹介的な話から始まっているようなので、それを踏襲して、今回は私のバックグラウンドをご説明させていただきます。

Webコンサルタントから、ISPのデジタルマーケターに

1社目:手探りの中で技術理解力を培う

1社目は、Adobe Marketing Cloudを扱う代理店で、Webコンサルタントとしてさまざまな企業のWeb分析・改善業務に3年ほど従事しました。

最初の会社は、本業がSIer(システムインテグレーター)だったこともあって、Webデータ分析に関することもさることながら、システム面での表層的な知識や考え方も身につけることができました。

ある程度のJavaScriptは自分で書けるようになり、データベースの持ち方や各種言語の考え方などについて「理解できる」程度の技術的な基礎が作られています。

ちなみに学生時代は京都で社会学系の大学院に行っておりまして、「街」に関わる合意形成や意識調査等に関する研究などをしていました。すなわち完全に文系出身。森見登美彦の小説に出てきそうな、怠惰なダメ学生。ということで、技術は社会人になってから覚えた口です。

2社目:デジタルマーケティング全般の実践から生まれた器用貧乏

2社目では先述のISPで、toC向けの通信回線契約にまつわるお仕事をさせていただきました。6年ほど在籍し、以下のようなことを実施しました。

  • 各種マーケティングソリューションの導入~浸透の戦略を作って実践したり
  • 年間50本のA/Bテストを回したり
  • DMP導入~運用してみたり
  • コンテンツメディアを2つほど立ち上げてみたり
  • そのグロースの中でSEOやSNS運営の諸々を自分でやったり

見ていただいてわかるように、良くも悪くもデジタルマーケティングの「器用貧乏」。1社目における「技術」への理解と、2社目での実践を通して、幅広く多くの実戦経験とそれに伴う知見を会得できたことは幸いでした。

「器用貧乏」とはあまり聞こえは良くないものの、個人的には「器用貧乏」は現在のデジタルマーケティング業務においては強みであると思ってもいます。尊敬する作曲家、菅野よう子さんも以前どこかのインタビュー記事で「器用貧乏も極めればプロ」というようなことを仰っていたような気がします。デジタルマーケティング関連で、これだけさまざまな分野において、「中の人」として実践できたことが今の個人の財産ともなっています。

現在のデジタルマーケティングは、1ジャンルの専門性だけでは全体最適ができない、複雑な状況にあります。幅広く多面的に物事を捉えられる器用貧乏さがあれば、各分野で専門家を携えることで全体最適が叶うというもの。その意味で、私のキャリアとスキルは、稀有であり有益である、と感じることが多いです。

仕事に対する考え方

前置きが長くなってしまいましたが、本稿の主題は「仕事に対する考え方」。ということで、仕事において大事にしていること、4つ挙げさせていただきます。

  1. 実践主義
  2. インサイトを考える
  3. 既存のやり方を捨てる
  4. パートナーに好かれるクライアントになる

1. 実践主義

「論より証拠」ということわざがあるとおり、仕事においても理論や定説を学ぶより、実践から得られることのほうが圧倒的に多いと思います。ということで、私の基本スタンスも実践主義です。

たとえば、本でプログラミングを学ぶのではなく、「とりあえず」プログラミングしてみるところから始める。Webサイトの作り方やGoogle Analytics、Google Tag Managerについて学ぶために、とりあえずプライベートなサイトを立ち上げて、その中でスクリプトを書いて実装する。SEOで順位を上げる方法や、SNSでバズるメカニズムなど、個人のWebサイトを作ってその実験と分析の中から学んでは仕事に活かす、という方法を取ってきました。

薄くとも実体験を通して得られた知見は、さまざまな情報の中から本質を読み取る力をもたらしてくれると思っています。

2. インサイトを考える

インサイトの重要性を意識したのは、大学院時代のフィールドワークで、とある先生が発した言葉がきっかけでした。

街に住む人に“駅前にどんなものがあれば嬉しいですか?”と聞くと、“スタバが欲しい”とか”ソフトバンクショップが欲しい”という言葉が出てくるけど、本当にできたところで実際にはめったに行かないし、街の活性化にはつながらない。

これは、マーケティング界隈でもよく言われる「ドリルを買いに来た顧客が欲しいのは、ドリルではなく穴だ」ということと同じですね。そういったことも関連し、自身が施策を検討する際にはまず「このケースのインサイトは何か?」を考えます。

インサイトは日本語に翻訳しにくい言葉で、一般には「知見」「洞察」などと訳されていますが、本稿では「顧客の根源的な欲求」というような意味で用いています。

ただ残念なことに、インサイトは数字に表れないので、施策の実行判断に落とすときに数字が邪魔になることもあります……。なかなか難しい部分ですね。

3. 既存のやり方を捨てる

ルールとか固定観念とか偏見というものが嫌いなんですよね。仕事においては、既存のやり方、慣習、常識はまず疑ってかかり、合理性がないと判断したものは採用しません。こうした姿勢は、人の目には協調性のなさと映るかもしれません。他人にも自分のやり方を踏襲してほしい人、変化したくない人、一般論や風潮を鵜呑みにする人にとって、私は厄介者でしかないでしょう。

そういう考え方の自身のインサイトを分析するに、もしかすると自分自身の性格に起因しているのかもしれません。生来の人見知りかつロジカル人間である私は、昔から「やる気なさそう」とか「考えてることがよくわからない」と言われてきたこともあって、他人から受ける固定観念などに気持ち悪さを感じてきました。そのあたりが原体験となり、柔軟さに欠けたり、変化できないことに対する嫌悪感があります。

「変化をいとわず、つねに改善してベターな状態を作る」という考え方なので、慣習とか常識みたいなものには、基本的には従いません。けれども、もし再定義することで有効に使えそうなものならば、積極的に再定義したうえで採用・実行する、というマインドです。

既存のやり方を捨てて、予算範囲内でできることを再構築してみると、意外と今までにない面白くてパフォーマンスの上がる方法が見つかるものだと思っています。

このリレーコラムにおいても、他の人が3つに留めているにもかかわらず、4つ挙げていることもまた、この項目を立証しているようなものでしょう。

4. パートナーに好かれるクライアントになる

さて最後。これ、けっこう重要だと思っていますので、書きます。ここで言う「クライアント」とは広告主側としての今の私の立ち位置であり、「パートナー」とは代理店やツールベンダーなどを意味します。

一言で表すと、「パートナーのパフォーマンスは自分のパフォーマンスに比例する」ということ。つまり、パートナーのパフォーマンスを高めようと思ったら、まず自分のパフォーマンスを高める必要があります。 これは1社目のWebコンサルタント時(つまりパートナー側の時)の自身の経験から、金ではなく、「そのクライアントが好きか」「尊敬できるか」「その人との仕事がおもしろいかどうか」がパフォーマンスを左右する要因であったと感じているからです。

仕事といえども、結局重要なのは人と人の関係性です。大金を積まれて受けた仕事でも、パートナーのことが好きになれない・尊敬できない案件では最低限のパフォーマンスに終始する。一方で大した金額ではなくとも、好きなパートナー・尊敬するパートナーとの仕事であれば、金額以上のパフォーマンスが出てくるものだったりします。

この考えから、現在のクライアント側としての自分のあり方が、「この人との仕事はおもしろい」「この人との仕事は自分にとって価値がある」と思ってもらえれば、必然的にパートナーの能力やパフォーマンスも向上する、と思っています。そして、そう思ってもらえるようになるには、当然自身の能力を向上させると同時に、パートナーとの接し方や伝え方も適切にする必要性が生じます。

こういう考え方をすると、相手の仕事に対してヤキモキすることもなく、あくまで「仕事の質はすべて自分次第」と思えるようになるので、変なストレスもなく自身のパフォーマンスを上げるポイントが明確になるので、精神衛生上も良かったりします。

◇◇◇

ということで、長々と書いてしまいましたが、以上が「私が仕事で大事にしていること」でした。正直言うと、他にも大事にしていることはたくさんあるんですけどね。「単純化する」とか「点を線・面にする」とか「自分がもっとも仕事ができない人間だと理解する」とか。今回は、とりあえず最初に思いついた4つを挙げさせていただきました。

今回は珍しく、わりと真面目な内容を書いてしまったので、次回はもう少し「頭の悪い話」をしたいと思います。

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