[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

不確実な要素は目標から排除すべきか、取り入れるべきか? マーケティングとマネジメントの観点から考える

マーケターコラム、今回はテレビ東京・明坂真太郎氏。マーケティングにおける数字と目標マネジメントについて。
テレビ東京 明坂真太郎氏

こんにちは、テレビ東京の明坂です。

マーケターも企業で働く社員である以上、当然ですが人事評価は避けて通れません。人事評価は給料にも反映されるわけで、働くモチベーションにも大きく関わります。

今回は、私が今まで複数の企業で働いてきた中で感じたマーケティングにおける数字と、事業と組織それぞれの観点での目標マネジメントについてです。

数値で評価されることが幸せな世界

私は今まで複数回の転職を経て、社員として4社を経験しています。業界も企業規模も自身の職務も様々で、社風やマネジメントスタイルも様々です。

企業ごとのマネジメントスタイルは自身との相性もあるので一概に良い悪いと言うことはできませんが、私が過去働いた企業の中ではリクルートのマネジメントがもっとも自分に合っていて、働きやすい環境でした。

理由は、当時私はリクルートの運営のとあるWebメディアの集客に責任を持つ立場で、個人の目標がサイトの年間コンバージョン数として明確に定められていたため、日々その数字に直接向き合える状況だったからです。

目標が定量的に明確というのは、会社員としては当然のようにも思えます。たとえば営業担当者であれば契約獲得件数や売上金額の目標を持つことが一般的です(ただし、間接部門では定めるのが難しい場合もあります)。

明確な定量目標の下にPDCAを回し、数値を改善することは、個々の業務のノウハウ蓄積からのスキルアップにつながり、それはやがて評価に反映され、モチベーションも向上するといったサイクルへとつながります。明確に達成すべき数値目標があるということは、当然、未達の際には悔しい思いもしますが、それもまた、改善をするため、成長のために必要な痛みだと私は考えます。

まずここでの私の主張は、定量的かつ明確な数値責任があることは、事業においても組織においてもマネジメントとして有効であるということです。

自らが責任を持つ数字は制御しきる

さて、先ほど目標が明確であれば仕事がしやすくモチベーションも上がると述べました。ですが、それには条件があり、その目標を背負う人がその数字を制御(コントロール)できていることが必要です。

たとえば、景況などの制御不能な外部環境から大きな影響を受けるビジネスにおいて、外部環境を読まずに目標を立てると、“たまたま”景気が良くなって達成したり、悪くなって未達になったりします。そのような状況で「どれだけ頑張っても景気次第だしな」と思ってしまうと、もうそこで思考停止に陥ります。

これは多少大雑把な例でしたが、要するに、担当としてもマネジメントする側としても、実務者が数字を制御可能になるよう、緻密なロジックで目標を立てる必要があるということです。

目標設定のロジックとは?

では、緻密なロジックで目標を立てるためにはどうすればいいのか。参考までに、私が過去に行っていたやり方を紹介します。

リクルートのWebサイトで私が集客担当として行っていたことは、マスおよびデジタルの広告、検索エンジン(SEO)、アフィリエイトやSNSなどの自社が利用していたすべての集客チャネルにおいて、どのようなインプットをするとどのようなアウトプットになるか、そのプロセスの中でどの程度運(ブレ)の要素があるか、様々な変数を加味し公式化することでした。

デジタル広告のアウトプットはインプットにもっとも相関します。検索エンジン(SEO)は施策が成功すれば強大なアウトプットを生む反面、大きな下落もあり得ます。最終的にはGoogleのアルゴリズム依存なのでインプットに相関しづらく、ある程度予測にも幅を持たせるしかありません。ただ、下落も含めて予測を立てておくことにより他の部分でカバーする準備もできれば、どう頑張っても到達不可能な目標を握ってしまうことはありません。

私が担当していたのは比較的サービス歴の長いメディアだったので、年間のトレンドも過去データを元に高い精度で予測が立てられていたという背景はありますが、どの程度の予算があれば、何月にどのチャネルにいくら予算を張って、何件のCVを獲得できるかの予測をした上で集客計画を作成していました。

仮に新規立ち上げなど過去データがない環境だったとしても、いち早く数字が制御できるようにデータを蓄積し、数値への影響力を高めていくということがスタンスとして重要であると思います。

そしてもし「晴れの日が多ければ達成できる」のような“天に祈ることしかできない変数”があった場合は、目標の設定ロジックを改善する必要があるでしょう。“他部門の頑張り次第”のように一見すると一蓮托生ですが、自らが及ぼせる影響が極小さいのであればそれもまた(管理職でもない限りは)責任範囲から外したほうがシンプルだと思います。

数値化できない要素こそがマーケティングの面白さ

ただ、最近の私はといいますと、制御しきれない数字、数値化できない不確実な要素への向き合い方が、少し変化しつつあります。

私はこれまでデジタルをベースにした定量化できる範囲が大きい世界でマーケティングを行ってきました。ただし、マーケティングというよりは、その大きな枠の中の集客プロモーションという一部の範囲が主でした。

そう思うのも、現在はテレビ東京でマーケティングを行う部署にいますが、テレビ東京自体のブランディングをするとか、番組の視聴率を上げる、といったようなダイレクトなレスポンスが把握しづらいマーケティング業務も多く担当しており、デジタルで完結できる世界とは勝手や考え方を転換する必要性を感じているからです。

視聴率は一見ダイレクトなレスポンスが見えそうですが、視聴率を1%動かそうと思うと関東で約40万人を動かす必要があり、多少の規模の広告などでは誤差の範囲を超えられません。

オフラインのユーザー行動や感情の動きなど物理的に可視化しづらい要素が多い中で、見えている接点をそれぞれバラバラに評価をしても、最終的にプロダクトの利用を経てロイヤリティ獲得までつながっているのかは評価できません。

CMがどのような認知を作っているのか、何がきっかけで最初に番組を見たのかなど、長い時間軸のカスタマージャーニーとのコミュニケーションを想定し、それぞれの接点ごとにどのように評価をするべきかを決めるという仮説とロジックをあらかじめ定めた上で、それを検証・修正していくという形で知見を溜めるという進め方は、デジタルの可視化できる世界で生きてきた身からすると地図のない旅のようで不安な部分もあります。

ですが、今ではその部分も含め、いやむしろその部分こそがマーケティングの面白みであると受け止め、様々な(ときにアカデミックな)文献や事例に多くあたり、取り入れるという行動へとつながっています。

前回のコラムで書きましたが、私は幼いころからゲーマーでして、難易度の高いゲームにチャレンジしクリアするのが好きでした。設定された環境の中で様々な要素に意識を巡らせて課題を解いたときの快感もさることながら、プレイングのディテールを詰めれば詰めるほど、何かしらスコアなどで定量的にフィードバックされ、成長が分かるのが面白かったのだと思います。

少なくともそんな気質の人にはあえて、数値化しづらい不確実な要素と向き合い、積極的に取り入れ、自らの目標を高く掲げるということをおすすめします。

本テーマやそれ以外についてもくわしく聞きたいこと、などあればぜひお気軽に私のTwitterアカウント(@dr_akesaka)へリプライをいただければ幸いです。

それでは。

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