信頼できるインターネットエコシステムを目指して「SIIJ」設立:SEO・広告の第一人者が語る未来

金谷武明氏、辻正浩氏、西舘亜希子氏、永山卓也氏による団体「Sustainable Internet Ecosystem Initiative Japan」がイベントを開催した。

インターネットエコシステムの現状とその健全性について考えるイベント『SIIJ Meet-up Vol.1 〜未来に向けた信頼できるインターネットエコシステムを目指して〜』が2023年12月11日、東京・麹町のLIFULL TABLEにて開催された。

イベントは、「Sustainable Internet Ecosystem Initiative Japan(以下、SIIJ)」が主催したもので、「Meet-up Vol.1」とタイトルにあるように、SIIJとしては最初の活動になる。SIIJでも当日の様子を記事にまとめている

SIIJが目指す、クリーンで自由なインターネット

SIIJは、株式会社Digital Evangelist代表の金谷武明氏を中心として設立された団体。設立された背景について、SIIJのトップページには、次の文言が記されている。

インターネットは、私たちの生活に不可欠な情報源であり、コミュニケーションの場としても重要な役割を果たしています。しかし、悪質なSEO、俗に言うMEOまたはローカルSEO、ステルスマーケティング、アフィリエイトの乱用、過度な広告など、多くの問題がこの貴重なリソースを脅かしています。これらの問題は、ユーザー体験を損ない、インターネットの信頼性を低下させるだけでなく、情報の自由度と透明性にも影響を及ぼします。

私たちは、インターネットをクリーンで自由度の高い空間として保ち、次世代に引き継いでいきたいと考えています。そこで私たちはこうした問題に取り組んでいく団体として「Sustainable Internet Ecosystem Initiative Japan」(SIIJ)を立ち上げることにしました

メンバーは次の4名の他、数名の事務局スタッフにより運営されている。

  • 金谷武明氏

株式会社Digital Evangelist代表、日本経済大学デジタルビジネス・マネジメント学科教授。2023年5月までGoogleにて16年間、オンライン広告や検索AdSenseやAdMobなどポリシー担当として、オンラインビジネスの収益を支える主要プロダクトに従事。特に検索領域では10年以上にわたりEvangelistとして活躍し、Google検索の不正対策などについて啓蒙を行う。

  • 辻正浩氏

株式会社so.la代表。さまざまな規模、種別、業界のWebサイトのSEOに関わる、SEOの第一人者。日本の検索の約5%に関与していると言われる。

  • 西舘亜希子氏

株式会社ブランドジャーナリズム取締役COO、株式会社ホワイトグラッシーズシニアコンサルタント。2008年よりメディアビジネスに携わり、2020年から2021年まではpopIn株式会社で取締役をつとめる。元ビーチバレーユニバーシアード日本代表。

  • 永山卓也氏

株式会社ユニットテイ代表取締役。和歌山大学講師。個人店舗から大手チェーン、自治体、地域団体まで、観光と商工ビジネスのマーケティング支援を行っている。「ローカル検索」と言われる地図検索、地域検索の第一人者。

より良いエコシステムを実現するために

イベント当日、会場には平日の夜にもかかわらず、約80人もの参加者が集まった。参加者のバックグラウンドはSEO、広告関係、マーケティングの他、公共政策、法務、Trust&Safetyなどさまざま。多くの人がインターネットの現状と未来を危惧し、あるいは希望を抱き、より良いエコシステムを築こうとしていることがわかる。

金谷武明氏

イベント冒頭では、モデレーターの金谷氏が、本イベント開催までの経緯を次のように語った。

辻さんや永山さんに声をかけ、ディスカッションをくり返し、どんな活動ができるか考えたが、なかなかまとまらなかった。そこで、まずはみんなで集まってみよう、私たちが考えていることをみなさんに伝え、みなさんの考えを聞く場を設けてはどうかという話になり、こういった場になりました(金谷氏)

インターネットでは、良いコンテンツを作る人のもとにたくさんの人が集まり、そのサイト上にある広告をクリックしたり商品を買ったりすることで作り手に収益が入り、その収益によってまた次のコンテンツが作られる。こうした循環・エコシステムが作られれば、みんなが良いコンテンツを作り、自然な競争が生まれ、インターネット上にどんどん良いコンテンツが広がっていく。

しかし、そのエコシステムを破壊する者(たとえば、優れたクリエイターのコンテンツを無断で使ったり改変したりする、悪質な手段で検索順位を上げるなど)が現れると、本来クリエイターに入るはずだった収益が入らなくなり、コンテンツを作ることができなくなってしまう。するとインターネットの品質は下がり、役に立たないものになってしまう。

その後に何が起きるか? 規制が行われ、次の世代がおもしろいことをやろうと思ってもルールだらけになり、自由な空間が失われてしまうというわけだ。

これを法律で規制するのではなく、一人ひとりが『やるべきではない』と理解すること、またそうした人がひとりでも増えることが大事だと思い、この活動を始めました。SIIJは企業を母体としていないから強制力はないが、縛られるものもないので、だからこその意味ある活動をしたい(金谷氏)

では、実際にどんな活動をするのか? 実は、本イベント開催時点では、具体的なことはまだ発表されていない。というのも「まずは集まってみんなの話を聞くこと」が本イベントの趣旨のひとつだったからだ。

なお、SIIJは後日、本イベントの反響などを元に「インターネットのエコシステムの未来に懸念を感じる個人の方の拠り所・連帯の場」として今後の活動を進めていくと発表した。

大切なのは、Web上で求められる存在になること

次に登壇した西舘氏のセッション「広告の未来を共に築く:健全な広告の重要性」では、倫理的な原則に基づいた広告が必要な理由を、広告の効果・役割に立ち返って再確認し、広告主やプラットフォームだけでなく、一人ひとりのユーザーにできることから変えていこうと提案するものだった。

西舘亜希子氏

ユーザー離れは誰にとっても不幸なこと。それぞれ自分の立場、役割の中で、何を許して何をやるべきでないのかを捉え直し、心地良いインターネット空間を守り抜くことが大切ではないか。

人間のクリエイティビティは『ハック』ではなく『自社サービスや商品の価値を高めること』。自分たちの産業を盛り上げるために、誰かに石を投げるのではなく、みんなで一緒に考えたい(西舘氏)

続いて登壇した辻正浩氏は、「検索流入を安定して伸ばす3つのポイント」と題したセッションにて、新規ネット集客における4つの柱(自然検索、SNS、広告、レコメンド)がどれも近年不安定で揺らいでいることを指摘。そうした中で、安定的に検索流入を伸ばし、大きく落とさないためのヒントを3つ提示した。

  1. サイト価値と流入のバランスを崩さないこと
    満足する検索ユーザーだけを集めることに留意する

  2. 自然検索に頼りすぎないこと
    自社サイトの適切な自然検索比率を定め、それを越えないように流入ポートフォリオを組むべき

  3. Web上で求められる存在になること
    競合の出していない情報、行っていないアプローチを追求し、Web上で足りていない穴を埋めるように各種の設計を行うことが重要

辻正浩氏

これだけ聞くときれいごとや理想論だと思われるかもしれないが、この15年間でSEOは大きく変わり、多くの人に好かれるサイトをつくることがもっとも検索トラフィックに結びつくケースが増えてきた。ネット上のエコシステムの中でどれだけ自分のサイトが果たすべき役割を果たしているか、それが重要です(辻氏)

持続可能なインターネットを望む人々の熱い想い

最後に、「激変するプラットフォームと持続可能なネットマーケティング」と題して、各分野の第一人者によるパネルディスカッションが行われた。デジタル広告の第一人者としてアタラ合同会社の杉原剛氏、SEOの第一人者として辻氏、ローカル検索の第一人者として永山氏が参加し、モデレーターを金谷氏がつとめた。

永山卓也氏

このセッションでは、それぞれの分野において、この一年間で大きく変化したことや未来への変化予測、それに対して必要な心構え、やってくる激変に備えて何をすべきかといったテーマについて議論が行われた。

どの分野においても2023年は大きな変化があり、その流れは2024年以降も継続することが予想されるので、各人がそうした変化をしっかり受け止めて一つひとつ適切に対処していく必要がある。いずれもパネルディスカッションの短い時間内で簡単に結論が出るテーマではないが、3人の第一人者からは、議論の起点となる示唆に富んだ見解がいくつも述べられた。

◇◇◇

その後は懇親会が開かれ、ドリンクを片手に、あいさつや名刺交換をしたり、パネルディスカッションでフォーカスされたテーマについて語り合ったりといった時間が設けられた。その様子からは、多くの人々がセッションやパネルディスカッションの内容をポジティブに受け取り、それぞれの日常に持ち帰ろうと試みていることが見てとれた。

インターネット上のコンテンツを作る側としてはもちろん、ユーザーとしても意識を刺激された本イベント。そこには、インターネットがクリーンでオープンであることを本気で望み、改善のために学び、行動し、健全な状態で次世代へと引き継いでいこうとする人々の熱い姿勢があった。第1回開催の成功を経て、SIIJが今後どのように発展していくのか注目だ。

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