BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊
『運は数学にまかせなさい―確率・統計に学ぶ処世術』
斉藤 彰男(編集者、システム・エンジニア)
数式をいっさい使わない確率・統計の入門書
解析・分析に効く数学理論を小説を読むような感覚で理解できる
- ジェフリー・S・ローゼンタール 著、中村 義作 監修、柴田 裕之 訳
- ISBN:978-4-15-208842-0
- 定価:本体2,000円+税
- 早川書房
確率・統計というと、ギャンブルとか世論調査とかをイメージする人が多いが、じつは情報科学の世界では、数多くのシーンでその研究の成果が活かされている。
もはや、インターネットの分野で仕事をする人にとっては“必須科目”といえる知識であるが、いざ学ぼうとして書店を訪れてみると専門書は数式の羅列で、伸びた手がつい引っ込んでしまうという声をよく聞く。そのような人にぴったりなのが、数式が一度も登場しない確率・統計の入門書『運は数学にまかせなさい』である。
あるときはノンフィクション小説を読むような感覚で、またあるときは小噺を読むような感覚で、確率論における「ランダム性」「大数の法則」「中央極限定理」「正規分布」「信頼水準」「ベイズ統計」といった理論が理解できるのは、著者のジェフリー・S・ローゼンタールが、この分野の長年の教育経験から得た手法が詰め込まれているからである。
たとえば「大数の法則」は、第3章「法則を見極める――なぜカジノはかならず勝つのか?」で解説されている。ここではゲームのルールがほんのわずかカジノ側に有利になっていて、個々のゲームでは客が勝ったりカジノ側が買ったりするが、数多くのゲームを総合した結果は「大数の法則」に支配され、カジノはかならず勝つことが解説されている。
もし読者がマーケティングに携わっているなら、第5章「殺人という最も卑劣な行為――傾向を読む」に興味を持つことだろう。ここでは「回帰分析」という手法がわかりやすく解説されている。また第11章「20回に19回まで――誤差の範囲」も気になるだろう。ここでは、確率的現象がベルカーブへ収束するという「中央極限定理」が解説され、さらにに誤差の範囲を簡単に計算する方法も紹介されている。とりわけ調査件数と誤差の範囲の関係はさまざまな調査に適用できるので、学ぶところが大きいだろう。
情報科学やインターネットにおける確率論の応用については、第12章「ランダムが救いの手――不確実性があなたの味方になるとき」と、第15章「スパム、スパム、確率、そしてスパム――迷惑メールをブロックする」に解説されている。第12章では、通信の暗号化で使う「公開鍵暗号法」が「ランダム性」によって成り立っていることが紹介されている。また直接計算するのが難しい高度な計算を、ランダム化されたシミュレーションを繰り返して解を得る「モンテカルロ法」についても紹介されているが、このモンテカルロ法は著者も述べているように、現代科学にはもはや欠かすことのテクノロジーとなっている。
第15章では、最近利用者が増えている「スパムフィルタ」のアルゴリズムが「ベイズ統計」理論をベースにしていることが紹介されている。場合によっては99%を超える正確さでスパムを判定する「スパムフィルタ」のメカニズムには、多くの読者が興味を持つことだろう。
本書は、数学の専門知識がなくても理解できるようにやさしく解説されているうえに、ふだんの生活で遭遇する事象を題材にしているので、楽しみならがら確率・統計のエッセンスを習得できるのが特徴だ。読み終わってみると、日常生活のいたるところで確率に支配されていることに気づかされて「これも確率、あれも確率」と、なぜか日々の出来事が新鮮に感じられる昨今である。
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