コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の四十九
組織が陥るラビリンス
価値観は人それぞれ。自由自在に作れるが故に、商売用ホームページではその価値観がマイナスとなることがあります。
トレンドとして勢いのある3カラムよりも、フレーム構造以来の2カラムに親しみを覚える人もいれば、ウィンドウが固定されるフレームにも根強い人気があります。動画、音声、Flashといった「AV系」への傾倒や、テキスト芸にコダワリを持つ人もいます。ブログ型で行くのかいわゆるホームページなのか、SEOやLPOへの理解度も判断を分けます。
あまりの選択肢の多さが議論のテーマを増やし迷宮に誘い込むのです。個人用と違い、会社などの「組織」では意見集約する形での「合意」という儀式が避けて通れません。合意には暴走を防ぐブレーキとしての役割があるからです。
そして「シンプル」という結論がでる場面に何度も立ち会いましたが……。
今回はサッカー解説の松木安太郎さん風にいうところの「スゥインプル(シンプル)」について。
シンプルという錦の御旗
商売用の結論からいえばコンテンツは多い方が良く、基礎的なSEOができているなら、10ページより100ページが良いです。なぜなら、すべてのページが「入り口」となるからです。下手な鉄砲でも撃たなければ当たりませんし、低コストで連射できるのがホームページの利点です。
選択肢の多さから迷宮に迷い込んだ議論の出口として採用されることの多い「シンプル」とは、簡潔でスッキリしたホームページということです。
「わかりやすさ」や「見やすさ」という正論は、議論という迷宮に疲れた人々への福音となり、朦朧(もうろう)とした意識の中で輝きを放ちます。そこで「合意」という儀式を執り行えば、誰もが「シンプル」というお導きにひれ伏します。異を唱えることは神を冒涜するかの所業かのように。
「わかりやすさ」「見やすさ」が「主観」によるもので、福音が悪魔の囁きだと気づくのは制作に移ったときです。
スッキリという自己満足
社名とコンテンツへのメニューを並べただけでもシンプルですし、イメージ写真に小振りな文字やモノトーンで統一してもシンプル感をだすことができます。中身か色かデザインか。はてさて、「合意」したのは何をシンプルにすることだったのでしょうか
主観を軸にするのは大変危険です。パステルカラーを「ぼんやり」と受けとる人もいれば、シックな配色を「暗い」や「重い」と評する人もいますし「派手」の概念は好みで変わります。主観は合意ではありません。
悪魔“シンプル”の囁きに甘い幻想を抱くのは、混乱したアイデアをすべてまとめて「最適解」を導き出す苦痛よりも、バッサリと切り捨ててしまった方が楽だからです。答えに詰まり「もやっ」としていた脳がスッキリします。
また、「情報量が少ない」は理解したという自己満足のハードルを下げてくれます。これは「長い文章は読まないは嘘」での指摘と重なります。
SEO以前の基本の話
悪魔は「手抜き」への誘惑もします。
口頭でアイデアはだしても制作に協力しない人は多く、Web担当者の悩みの種となります。「商売用ホームページは業務の一環である」という認識が不足した「アイデア」ばかり出てくるのは、リーダーと組織の問題です。「何ページも見ないでしょ」「コンテンツが多くても迷子になるよ」と、もっともらしい理由を掲げページ削減を要求し、協力しない自らの行いを棚に上げます。悪魔が飛び回っている瞬間です。
情報が少ないこととシンプルは同義語ではありませんし、ページ数が少なくても全部のページを見てくれる保証はありません。ページ数とページの魅力は別次元の話です。
また、情報量の不足は「商売用」の足を引っ張ります。コンテンツ不足が「説明不足」となり、問い合わせの電話が鳴りやまなければ人件費をロスしますし、更なる「説明」を求めて「検索」されればライバル会社へのキラーパスとなるのです。
反論できない理想論のリスク
「平和は素晴らしい」という主張に異を唱えるのは至難の業です。多くの人が平和を望みますし、そうあってほしいと願っています。しかし、隣家が垣根を壊して我が家の敷地内に家を建て始めたらどうするでしょうか。話し合いに応じずにブルドーザーで整地を始められたら……理想は心にあるべきですが、現実が追いつかないことは多々あります。
「ゴチャゴチャよりシンプル」、わかりやすく見やすいホームページは最高です。しかし理想論だけで隣家の新築工事を止めることはできないのです。会議の席で「シンプルなホームページ」と出るたびに、Web担当者は「言うは易く行うは難し」と戒めるべきです。
新聞の全面広告には意表を突くぐらいシンプルなものもありますが、あれはイメージ広告であって、ものを売るためではありません。また、ブランドやアーティストのサイトではシンプルなホームページもありますが、これらもまた「イメージ商売」なのです。
シンプルは普通の商売に不向きだったりします。
商売は理想論より確率論
タレントのような知名度があったり、サイトのテレビCMを流すほどの広告費を使えば話は別ですが、一般的な商売用ホームページは探してもらうことから始まります。SEOも探してもらうためのものであり、情報は多い方が有利です。
シンプルもコンセプトが明確で顧客動線が計算されたものが実現できるのならいいのですが、単純な「見た目(モチロン、好みという主観です)」や、コンテンツを削った「シンプル」なら商売用では不利だということです。
商売用の最たるものである通販サイトをみてください。どこも「ゴチャゴチャ」しています。楽天もムトウもジャパネットたかたも。サイトを訪れた人の嗜好を狙い撃ちすることはできないので、ブッフェスタイルのように多くの料理を並べてお好みを選んでもらうような「ゴチャゴチャ」に行き着くのです。
商売は確率論で積み上げるもの。「シンプル」は現場で「0で除算」となりかねないのでご注意を。
そして余談ですが松木さんの「スゥインプル」は芸風で確信犯です。
♪今回のポイント
シンプルは「主観」であいまいなもの。
普通の商売は確率論で積み上げるもの。
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