BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

意思決定、行動選択のプロセスを紐解く/書評『神経経済学入門』

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『神経経済学入門――不確実な状況で脳はどう意志決定するのか』

評者:森山 和道(サイエンスライター)

経済学と脳科学という2つの学問が、今や深いレベルで融合を目指す
確率論的な脳科学へのアプローチは、新たな研究分野として要注目

神経経済学入門の書籍画像
  • ポール・W・グリムシャー 著、宮下 英三 訳
  • ISBN:978-4-8201-1893-0
  • 定価:3,800円+税
  • 生産性出版

あらゆる意志決定の状況において動物と人間が直面する課題を経済学モデルによって記述することができる」と著者は語る。

神経経済学とは、経済学の枠組みを使って人間の脳が行っている意志決定の仕組みを知ろうとする学問であり、この本はその内容を概説したものだ。

生きることは、すなわち「選択」の連続である。人間がどのようにして、なぜその「選択」を行ったのか。それを理解することが神経経済学の目的だ。

意志決定というと難しく聞こえるが、毎日誰でもやっていることだ。ハンバーグを頼むかサラダにするか、日本酒にするかチューハイにするか、右に進むか左に進むか、今日は寝てしまうか、もうちょっと頑張って仕事するか、などなど。私たちの日常は意志決定の連続だ。しかもそれは時として確率的に行われる。

なぜ確率的な意志決定が必要なのかというと、情報が不確実だからである。何をすべきかについての情報が十分であれば、決定論的に最適なことをやるだけだ。だが実際には未来は不確実だし、いまこの瞬間のことだけ取っても、手に入る情報が完璧であることなどあり得ない。

脳は、何らかの基準をもって決断しなければならない。その規範は何で、どのような計算を行っているのか。そもそも人間は何に価値を置いているのか――。

このような研究は、行動経済学や心理学の領域で進んでいる。それをさらに神経系まで遡ろうというのが神経経済学の目的の1つだ。

本書の内容は、経済学というよりは脳科学であり、この領域に縁がない読者には難しいかもしれない。だが、経済学と脳科学という、世間ではまるで異なるものとして捉えられている2つの学問が、接点どころか今や深いレベルで融合を目指す動きがあることを広い読者に知ってもらいたい。何しろ人間の行動は、すべて脳が駆動源なのだ。人間について考える学問は大なり小なり突き詰めていくと、脳神経系に行き着く。

経済学と生物学というと、ずいぶん遠いもののように考えられていると思う。だが著者らは、経済学は生物の科学だという。人間がどのように選択するかについての研究という点では同じだからだ。

神経経済学と近い分野として神経マーケティングと呼ばれるものもある。人間の選択の原理を調べることで、商品開発にいかそうというものだ。たとえば人間の選択原理がわかり、人間とはこういうものだという正しいモデルを構築できていれば、人間が選ぶ傾向の高い消費財を開発することもできる。というわけで、実利的な面もあるのだが、神経経済学そのものは神経マーケティングとは似て非なるものだ。

経済とは、人間の脳が生み出している働きの結果の集合だ。本格的な経済活動を行うのは人間だけだ。そもそも経済とはいったい何なのか。人間の本質にとってどんな意味を持つのだろうか。そういう視点で経済活動を捉え直すとどんなふうに見えるだろう。神経経済学の一番おもしろいところはここにあると思う。

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