コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百伍十弐
よく考えれば1社だけだった
中小企業は「平成時代」に入りずっと景気に振り回されてきました。元祖バブルの時ですら社員の少なさを理由に発注が停止され廃業に追い込まれる「人手不足倒産」が噂され、土地がないことを理由に金融機関が運転資金をストップする「黒字倒産」もありました。そして21世紀になり状況は悪化の一途をたどります。それは、弊社の創業以来のクライアントにも影を落とした年越しでした。
年が明け、何度か紹介している「だるま不動産」から電話がありました。不動産価格の下落、需要低迷がニュースで叫ばれていたので、暗い相談かと思いきや「新企画」についてです。大きな声では言えないが「好調」だと囁きます。ホームページ上で展開していた「営業戦略」が実りはじめたというのです。そして冷静にみると、悪かったのは創業以来のクライアント1社だけでした。
営業戦略の基本
この不景気の中、弊社でホームページを手がけている企業は概ね好調です。東京は足立区のスタミナ苑の行列はさらに伸び、近所のヤスリ屋の三代目は「黒字企業」が対象の中小企業減税を喜びます。また、最悪を記録したことのあるクライアントも、業界全体が長期低迷するなか、2年前には「過去最高益」をあげており「善戦」と見ることもできます。各企業の努力が最大の理由ですが、「営業戦略」が努力を助けているのも事実です。営業戦略とは目的を達成するための「最適解」で、同じ労力で最大の結果を求めるアプローチです。
営業戦略にはさまざまな方法論があり、ここで述べては字数が尽きてしまいますが、実戦では戦略と同等に「稼ぐ方法」が成否を分けます。それは路銀がなければ旅を続けられず、蓄えはいつか底をつくからです。
日雇い派遣のマネーパワー
描いた営業戦略がそのまま実現することはありません。綿密な市場調査と需要予測をしても100%当たるものではなく、見直しや軌道修正が必要となり遠回りをします。このとき金銭的な余裕がなければ「営業戦略」は妥協に蹂躙されてしまいます。この妥協を追い払うのが「現金」の力です。
投資家や金融機関から出資や融資を引き出すのも1つの方法ですが、だるま不動産は「日雇い派遣」によって現金収入を確保しました。不動産業界は横のつながりが強く、分譲住宅の展示場で人手が足りない場合は、同業者を日雇いして派遣します。成約できれば一定のマージンを支払う形態で「応援」などと呼ばれています。営業戦略を実行する上で、この「日銭」がどれだけ救いとなったことでしょうか。
ぬるい世界の厳しい現実
低迷に喘ぐ不動産業界は「ぬるい世界」でもあります。たとえば、弊社は昨夏、事務所の拡張にともない中古住宅を購入してそれに充てたのですが、この正月、仲介した不動産会社からは年賀状すら届きません。多くの不動産業者と取引した経験から、これは珍しいケースではないことを知っています。ちなみに仲介業者は上場企業で、不動産業界では「顧客フォロー」という概念が希薄です。
「数打ちゃ当たる」は営業の真実です。体育会系的な営業部隊が存在するデベロッパーのテレアポ&戸別訪問の訪問件数至上主義や、週末新聞に折り込まれるチラシも、地名を絡めて検索するとやたらと表示される不動産広告も発想は同じ「数の論理」で、そこに顧客の囲い込みや、育てるといった「智慧」は不用です。
毎年のように家を買う人はまれで、生涯一度の取引ということから疎かにするのでしょうが、年賀状の一枚でも出していれば、購入者が友人や知人から「物件購入」の相談を受けた際に「知り合いの不動産屋」として声がかかることを期待できます。ところがたった一枚50円の年賀状で入手できる特等席をドブに捨てているのです。顧客をつなぎ止めるために、一度利用しただけで半永久的に届く美容室や、毎月、割引券を贈る飲食店などと比較して圧倒的に「ぬるい」世界です。
着眼点を変えた戦略
だるま不動産の営業戦略は資産管理の「代理人」となることです。一般的な不動産業の「ぬるさ」の逆張りで、永続的なお付き合いを狙います。営業戦略を実現するためには時に歯を食いしばることもあります。住宅ローンの支払いが困難となった際、「任意売却」という方法をとれば「競売」より高値で処分することが期待でき、クライアントはその後の負担が軽くなります。これだけ見れば「代理人」の出番なのですが、時にこれを断ります。住宅“ローン”とは契約で、金融機関が納得すれば条件変更は可能です。経験上、「住宅ローンの見直し」が可能な案件には「代理人」ではなく「本人」が臨むものだと諭すのです。喉から手が出るほど利益が欲しくても「代理人」という戦略上、顧客利益を優先するのは当然で、我慢ができたのは「日銭」のお陰です。
この相談者からは後日、別のクライアントを紹介されました。
ホームページで結果が出ないなら
日銭を稼ぐ方法は「ホームページ屋」の領分を越えるかも知れません。しかし、営業戦略の策定と同時に「稼ぐ方法」があるかを確認することはできます。ホームページは「インターネット支店」であるならば「本店」の経営状態を確認するのは当然のことと私は考えます。さらに「ネット専業」なら日銭の確保はより重要で、優れたアイデアをもつサイトがあっけなく消えていくのはここに理由があります。
そして戦略を軸にすればコンテンツは自動的に決まります。だるま不動産の場合は、資産管理の「代理人」としての実績や経験談を用意します。すると「ぬるい」の不動産業者にありがちな「物件掲載」は、さほど必要がないことに気がつきます。これについては、だるま不動産の浜田社長はいいます。
掲載しただけで物件が売れるなら誰も苦労しない
インターネットがある今は、客の方が物件情報をもっている時代だと続け、だからこそ「プロの仕事」を求める客と出会うためにホームページを活用しようと考え、ミヤワキさんに依頼したのだと持ち上げてくれます。コホン。なにはともあれ、その背骨となるのが「営業戦略」で、背骨を支えるカルシウムが「稼ぐ方法」です。
今回のポイント
営業戦略を旅する路銀が現金。
現実的な対応策も同時に検討する。
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
- 企業ホームページ運営の心得の電子書籍
「営業・マーケティング編」「コンテンツ制作・ツール編」発売中! - 『完全! ネット選挙マニュアル』
現場の心得コラムの宮脇氏が執筆した電子書籍がキンドルで2013年6月12日発売! - 『食べログ化する政治』ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある(2013年8月1日発売)
コメント
>>「プロの仕事」を求
>>「プロの仕事」を求める客と出会うためにホームページを活用しようと考え、ミヤワキさんに依頼したのだと持ち上げてくれます。コホン。
???
ちょっとした
宮脇さんらしい、ちょっとしたしゃれっ気ですのでそこは突っ込まずに。
ただ、ゴールをどこに定めてどのように達成していくのか。戦略立案まで含めた提案というのは、今後ますます需要が高まると思います。
編集部 池田
本当にそうですよね。
「良いものは口コミで広がっていく」
これを理解出来ていないところが如何に多い事か。
逆に言うと、宮脇さんが仰られている様に、
チャンスはそこら中に転がっていると言う事でも
あるのですが^^
追伸:
私も昨年、家を買い換えました。
(マンションですが。)
売りは、ライ〇ンズマンションで有名な大〇さん,
買いは、三〇のリハウスでしたが、
ともに年賀状は無し。
今住んでいるところは、少々上階の人に問題が有りまして、
(買う前に確認をしたのですが、問題無いと言われ。。。)
今、また家を探し始めているのですが、
この2社は外そうかな。と思案しております。
当たり前のことを
コメントありがとうございます。
バイラルだかバイカル湖だかバルカン半島は存じませんが、クチコミを過剰に囃し立てたネット業界もどうかと思ってましたが、一方の「リアル」において疎かにされていることはるーちぇさんのご指摘の通りです。
当たり前のことを当たり前にする。挨拶などはその最たるもので、取引が終わったら「バイバイ」というのはもっとも下品な振る舞いなのですが。
だから・・・できる不動産営業マンは独立していきます。そしてもちろんすべてという暴論は申しませんが、そうでないかたはそれなりにと。ここに会社の大小は関係ありません。だから、俗に「1号」という不動産取引免許をとったばかりの業者が熱心であることもあります。これは確率論ですが。
年賀状効果
ある人が家を買う
ある人が知り合いから相談をうける
しかも相談が不動産だと言う
そして不動産を紹介する
その不動産の口コミが広がる
年賀状を何枚出して、最初のお客から何年くらい経てば
「年賀状効果」が期待できるのだろうか、、、。