情弱選挙からネット選挙解禁へ。その現実と拡がる市場
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の293
ネット解禁がビジネスチャンスに
少々早い気もしますが、実は今回が年内最終号。だからと一年を総括するネタを毎年使うと編集長に叱られそうなので、今回は「来年」の話で締めくくります。
本稿公開時には結果が出ている「衆議院議員選挙」。ここで結果は「予言」しませんが、確実に「予言」できるのは、来年夏の参議院選挙においての、
ネット選挙解禁
です。橋下徹さんが代表代行(選挙前の肩書き)を務める「日本維新の会」が一議席でも確保すればという前提ですが、彼のもつ圧倒的な発信力が世論を誘導するからです。そして、Web業界にビジネスチャンスが訪れます。
チープ伝説の誤謬
ネットにおける選挙活動解禁には20世紀から賛成の立場です。特に前世紀には「資金力がなくても活動できる場所」として、強い期待を寄せたものですが、Webの普及は仮想空間をリアルに近づけました。選挙期間中もTwitterの更新をやめなかった橋下さんは、公示翌日の12月5日のTwitterでこう発言しています。
ネットでの選挙運動を制限すると、既存の政党ばかり利する。これから既存の政党は、バンバンテレビ広告、新聞広告をやるだろう(以下略)
そしてこの直前には
ネットでの選挙運動の最大の利点、カネがなくても選挙運動ができる(一部のみ引用)
とも。しかし、実際にネット選挙が解禁されれば、この橋下さんの主張は絵空ごとになると断言します。なぜなら、
ネットの世界も金持ちが勝つ
という厳然たる事実は、リスティング広告に真剣に取り組み、ライバル参入で、単価上昇に頭を抱えるWeb担当者ならだれもが知る「常識」だからです。
ちなみに、いまでもネット選挙は事実上、解禁されており、抜け道は沢山あります。投票を呼びかける選挙活動ではなく、政治信条を語る「政治活動」や、自分の意見を表明する「表現活動」は規制されていません。橋下さんがTwitterを更新し続けたのもこうした「脱法的解釈」によります。
くだらないこの世界の果てに
すでにネット選挙が解禁されている米国大統領選挙でも膨大なテレビCMが投入され、ハローキティーの服を着たあどけない少女が、両者の罵りあいに泣いて抗議する映像がYouTubeにアップされ話題となりました。資金力のある政党はテレビCMを流し、紙面を買い占め、そして「ネット広告」を買い漁ることでしょう。
つまり、これは橋下さんの別のツイートにあった、「くだらないCM、くだらない新聞広告(筆者要約)」に、
くだらないネットCM(広告)
が加えられるだけのことです。資本主義社会において、金持ちが勝つのは自然の摂理です。
ここに飯の種を見つけます。先に指摘したように、リスティング広告には党名に候補者名、政策のキーワードによる広告出稿が相次ぎ、すべてで一位入札を目指しますが、これらはWeb屋の日常業務の1つ。近所の政党支部や、参議院議員に売り込んでみてはいかがでしょうか。
ダークサイドの登場
ネット選挙で懸念される誹謗中傷については、橋下さんも懸念を表明していましたが、ここにはブラックハットなWeb屋の飯の種が転がっていました。彼らにとって「やらせブログ」を大量生産して対象候補者を持ち上げることも、貶めることも造作のないことです。
また、リスティング広告に対立候補名で出稿し、ネガティブコンテンツに引っ張り込む作戦も考えられます。もちろん、これは薦めませんが。
最初に述べたように、ネット選挙解禁には賛成です。ただし、橋下さんがつぶやくほど、バラ色の世界でないことも指摘しておくのは「ITジャーナリスト」を名乗る筆者の使命と考えます。同時にビジネスチャンスだと紹介するのは、「街角のホームページ屋さん」の代表として同業者の皆さんへの「お歳暮」です。
強者の論理に過ぎない
橋下さんは、ネット選挙の解禁が民主主義を進化させるというような主張もされていました。しかし、そもそも橋下さんはソーシャルメディアにおける「強者」です。
政治活動の前から茶髪弁護士として注目を集め、人気番組でレギュラーを務める橋本さんは、抜群の知名度を持って大阪府知事となり、大阪市長へ鞍替えする前には、永田町を揺るがすほどの影響力を誇っていました。Twitterをはじめたのはこの頃。つまり始めから、注目を集め続ける立場でネットを利用しているのです。
Twitterが「セレブの追っかけ」と呼ばれるように、ソーシャルメディアはリアルのポテンシャルが拡大される世界です。勤勉に働きながら政治を勉強して出馬した街角の賢者と、元グラビアアイドルなら後者に軍配があがることでしょう。そして「元グラビアアイドルが出馬」となればYahoo!ニュースに取り上げられ、選挙戦に影響することは間違いありません。つまりネット選挙解禁により、今まで以上に「話題性」が重要になるということです。つまり、
人気投票
の色彩がより濃くなることを民主主義の進化とするなら、政治家として発してはならないアイロニーです。
情報弱者の政治屋
参議院選挙は来夏に必ず行われます。その前に「ネット選挙解禁」を日本維新の会は必ず通そうとするでしょう。もともと小泉純一郎政権時代にメルマガ「らいおんはーと」を発行したり、ブロガーを招いて懇親会を開いたりと、ITには意外にも寛容な態度の自民党の優勢が伝えられています。世論も背中を押すでしょう。そして「解禁」となったときが、Web担の出番です。
今回の選挙で、前衆議院議員で「日本維新の会」から立候補する、ある政治家のサイトにアクセスするとPHPのエラーが表示されます。このサイトの修正を、剥がれたポスターを貼り直すと解釈するか、新しいポスターを作成したと見るかは評価の分かれるところですが、ネット活用を呼びかける代表代行との温度差を感じます。
また、すべての党を見渡して「ドメイン」をとっていない立候補者もちらほらと見えました。実はハガキやポスターの印刷は熟知していても、「ホームページ」を知らない政治家や秘書、そして支援者は多いのです。つまりそれは、来年、Web屋に新たな市場が開放されるということを意味します。
それでは良いお年を……と、本稿公開時も、正月の販促企画の仕上げに追われているのですが。
今回のポイント
情報弱者の政治家はまだまだ多い
「政治」という新市場が来年は狙い目
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