約10年で8割減の広告インプレッション、リスティング広告の効果はなぜ下がったのか
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の504
消えた8割の客
都内の繁華街にあるヘルスケア系の路面店は、10年前の開業当初、ミニコミ誌やポスティングで集客していました。しかし、ライバル企業の多さもあり、費用対効果が悪く廃業か移転を考えるほど追い込まれます。
あるとき、知人から同様の状況からリスティング広告(検索連動型広告)で大逆転した事例を聞き、Webの集客に注力すると決意します。その大逆転劇に関与していた私のところに相談に来たのが9年前のこと。
いまでは一般化しているリスティング広告のノウハウをレクチャーして実践すると、経営が軌道に乗りはじめ、サイトの改良を経て安定飛行に入り、自ら運用するようになります。
その店から何年かぶりに、新規客が減少傾向にあるという相談を受けました。持ち込まれた資料を見てビックリ。Yahoo! JAPANのリスティング広告である「Yahoo!プロモーション広告」のインプレッション(表示回数)が激減していたのです。語弊を怖れずに言うなら、当該キーワードの検索人口の8割がどこかに消えたということです。
むしろ高まるコスパ
お客が持ち込んだ2009年の資料と、最新の2017年の同月比で64万から13万へと激減。リスティング広告の微調整はしていましたが、出稿したキーワードの量や内容はほぼ同じです。
「10年近く、何も手を打たなければ当然」と思うでしょう。しかし、オーナーは広告文やキーワードの微調整を続けており、資料をよく見るとクリック数はほぼ横ばいの同95%、CPCは59%、月あたりの広告費も連動して下がっており、コストパフォーマンスは大幅に改善されていたのです。ヤフーにおけるリスティング広告の改善策は実っていたといえます。
リスティング広告経由のすべてが新規客とは限りませんが、影響していることは明らかです。なぜ新規客は減っているのか、ヘルスケア界隈は同業者に加えて、店頭のセルフケアグッズが伸長しており、Webのアプローチだけでは確たる結論はでません。
Web以外、その他の課題もあることから、まったく別の角度からの施策を提案します。ただし、検証過程で浮かんできたいくつかの推定は、同様の悩みを抱えるWeb担のヒントになることでしょう。
モバイルの圧勝
ここで素朴な疑問を抱くWeb担当者がいるかもしれません。もう一方のリスティング広告の雄「グーグル」はどうかと。実は、この店のオーナー、「ヤフーが一番」という価値観に固執しており「ヤフーのみ」にこだわっていました。いや、いまもそうなのです。
検索エンジンの処理を行う「検索エンジン」の部分として、ヤフーはグーグルの技術を利用しています。事実上、同じものですが一般の人は知りません。また、「ブランド」としてのヤフーの信奉者はいまだ少なくありません。10年前に寄せた「グーグル? ヤフーで問題ないしという国民気質」はいまも継続しています。
2009年からのWebの大きな変化として、真っ先に思い浮かぶのはモバイルファースト、パソコンから「スマホ」や「タブレット」へのユーザーのシフトでしょう。実際、相談されたヘルスケアサイトのアクセスはモバイルが58%、私が管理しているあるレストランのサイトでは、モバイル比率が78%に達する例もあります。その比率は78%に達しました。
逆転した比率
レストランのサイトのアクセスログから興味深いことがわかりました。Google Analyticsで検索経由のアクセス数を見ると、グーグルが44%、ヤフーが27%とグーグルの圧勝です。パソコンによるネットアクセス全盛期の検索エンジンシェアがひっくり返ったかのような比率です。
端末をチェックするとApple系が67%。モバイルに詳しい方ならご存知でしょうが、iOSブラウザ「Safari」のデフォルト検索エンジンはグーグルです。あくまでわずかなデータからの状況証拠ですが、客層にiPhoneユーザーが多いのであれば、モバイルファーストのリスティング広告集客を目指には「グーグル」が有利だと見ることができます。
さらに、いまどきのWebにおいて、SNSは絶対に無視できない存在です。
ググるよりもSNS
漫然とSNSを運営しているだけで、自社サイトに流入を期待するのは困難でしょう。SNS利用者を観察していての推論ですが、熱心にSNSを利用するユーザーは、SNS内で完結し、その外側には出ないようです。Facebookを拠点とした場合、TwitterやInstagram、LINEと「遠征」はあまりしないということです。特に若者の間では、「ググるよりも、TwitterやInstagramで探す」という行動が常識になりつつあります。
レストランのログも同じ結論になっていました。Facebookページを用意していますが、そこからWebサイトへの流入は極わずかです。一方、ほぼ放置状態のFacebookページで、盆暮れの長期休暇と臨時休業の案内をすると、多くの「いいね!」が集まります。
さらに、モバイルファーストの流れを少し掘り下げてみると「リスティング広告」への依存リスクも見えてきます。
とどまり続けることのリスク
各種ネットサービスが登場するたびに「イス取られゲーム」が展開されると何年か前に指摘しましたが、人が1日に使える時間は24時間しかありません。ユーザーは時代にあわせて、ツールを使い分けていきます。LINEで友だちとのコミュニケーションに時間を費やし、ユーチューバーの投稿やAbemaTVを視聴し、漫画配信サイト「comico」を見ているのだとしたら、SNSのクチコミならいざ知らず、わざわざネット検索するヒマなどないという仮説です。
さて、冒頭のヘルスケアの相談に戻ります。広告を集客手段とするなら、オーナーのグーグルアレルギーを治すこと、さらにSNSの活用はもはやマスト、積極的な取り組みが必要とレクチャーします。とりわけヘルスケアなら「Before After」の写真投稿によるコンテストなど打つ手を提示しますが、リスティング広告以外に取り組んだことがないと尻込みします。
そこで、リスティング広告は継続しつつ、既存客に頼る「お客さま紹介キャンペーン」など、20世紀からある販促アドバイスを授けます。これは徐々にながら確実に、効果を上げているようです。集客チャネルはWebだけじゃない。逆説的ですが、これもWeb担当者が忘れてはならないことです。
今回のポイント
1つの施策に依存することのリスク
お客の時間は24時間しかない
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