完成されたAIで見込み顧客を推定、2.5倍のリード獲得!インターネット広告CV率アップの秘訣は二番手集団のターゲティング
ITベンダーである富士通が、この春より国内のインターネット広告媒体に広く効率的な広告配信を行うサービスに乗り出した。もちろん富士通が広告業界への転身を進めているわけではない。広告配信サービスはあくまでも“起点”であり、AIの活用や業務システムとの連携によってデジタルマーケティングを本質的に高度化していくことに真の目的がある。
「ネットショップ担当者フォーラム/Web担当者Forumミーティング2018 in 大阪」に登壇した富士通の西本伸一氏は、「ITベンダーだからこそ出来るデジタルマーケティング~富士通が広告配信始めました~」と題して、社内実践を通じて明らかになったその効果を語った。
組織とプロセスの間にある壁を越える
デジタルマーケティングの最新トレンド
本題に先立ち、西本氏が解説したのが、デジタルマーケティングに取り組んでいる現在の多くの企業が抱えている「理想と現実のギャップ」である。
一般的にデジタルマーケティングは、製品やサービスの購入前の見込み顧客の「認知」や「関心」を高めて「検討」に導き、購入後(B2Bの場合、成約後)は高い「評価(満足)」を得ることで「リピート」を促し、自社に対する「愛着」を深めていく一連のプロセスから成り立っている。
しかし、現在はこれらのプロセスごとに膨大な数のツールが乱立しており、担当部門も分断しているのが実情で、「組織やプロセスの間に見えない壁が存在しています」と西本氏は指摘する。すべてのプロセスやデータがシームレスに連動するデジタルマーケティングの理想は見えていても、組織の壁を越えてプロセス、データをつなぐのは想像以上に困難なのだ。
CDPとPDSが最新トレンドとして浮上してくる
この課題解決を見据えつつ、この1、2年のうちに急浮上してくると予想されるデジタルマーケティングの最新トレンドとして、西本氏が示したのが下記の2つである。
- CDP(Customer Data Platform)
- PDS(Personal Data Store)
CDPは、プライベートDMPの発展形ともいうべきもので、これまでオンライン側に偏りがちだった顧客へのアプローチをオフライン側でも拡充していくもの。
一方のPDSは、“情報銀行”の基盤となるパーミッションの仕組みである。情報銀行とは、個人との契約などに基づき、個人に代わって妥当性を判断した上で、その人のパーソナルデータを第三者に提供する事業モデルだ。個人は提供するデータ量などに応じて対価を得ることができる。
富士通自身もイオンフィナンシャルサービスと共同した情報銀行の実証実験などを通じ、PDSへの取組みを開始している。
- 富士通:PDSのサプライヤーとして、パーソナルデータの取り扱いにおけるデータ管理方法や仮想通貨などによる個人への還元方法などを検証する
- イオンフィナンシャルサービス:パーソナルデータを活用する事業者側として、PDSにアクセスするための手順や運用、利用者の趣向に合わせた金融商品・サービスなどのタイムリーな情報提供の方法を検証する
「ダボス会議」で知られる世界経済フォーラムが、「パーソナルデータは21世紀のオイル」と訴えたのは2011年のことだが、今まさにその動きが本格化してきたと言える。
いまのうちに社内にオイル(パーソナルデータ)をため込んでおかないと、10年後には他社と対等に取引ができない時代がくるかもしれない(西本氏)
インターネットの黎明期よりネット広告を熟知していた富士通
上記のようなデジタルマーケティングの将来を見据えつつ、富士通は、2018年4月、インターネット広告配信を手掛けるパートナーと連携し、国内のインターネット広告媒体に広く効率的な広告配信を行う運用型DSP(Demand-Side Platform)広告配信サービス「AD Drive(アドドライブ)」の販売を開始した。
国内ITベンダーとしては初の試みだが、意外にも富士通がネット広告と関わってきた歴史は古い。「富士通はインターネット黎明期より、メディア側および広告主側の双方の立場で約18年に及ぶ経験を重ねてきた」と西本氏は語る。
メディア側の立場では、富士通製PCで展開してきた「プリインストール広告」を皮切りとして、その後のポータル広告、現在は「らくらくスマートフォン」のコミュニティ広告を展開してきた。らくらくスマートフォンのユーザーは60歳以上の高齢者が70%を占めており、「120万人を超えるシニア層にダイレクトに響く広告配信で好評を博している」と西本氏は語る。
一方の広告主側としての取り組みは、どのようなものだったのか。富士通も直販ECサイトを通じてPCやアウトレット製品を販売していたが、ビジネスの大切なパートナーである卸や小売店との良好な関係性を維持するためには、TVCMや雑誌・新聞広告などであまり派手な宣伝を行うわけにもいかない。「そうしたなかで適度なバランスのとれた顧客とのコミュニケーション手段として役立ったのがネット広告だった」と西本氏は明かす。
なぜ富士通はデジタル広告配信を始めたのか
もっとも、当時と現在では富士通のビジネスも大きく様変わりしている。富士通は端末に依存したB2C事業からB2B事業へと注力することとなった。
そうした中で注力しているのがデータ活用ビジネス。ネット広告で培ってきた知見とノウハウを活かし、お客様のデジタルマーケティングを全方位でサポートしている(西本氏)
今回富士通が始めたデジタル広告配信サービスAD Driveはその起点となるものだ。そこから、デジタルマーケティングを支援する「FUJITSU Digital Marketing Platform CX360」を活用した配信精度の向上、CRM/業務システムデータとの連携という3つのフェーズを経て広告配信を高度化していく。
この一連のソリューションは、具体的にどのような効果をもたらすのだろうか。富士通は社内実践を通じてそれを実証してきた。実際のB2B分野のビジネスで、リード獲得を目的とする取り組みを行ったのだ。
当初はクリック単価を低減することを目標としていたが、小手先のオペレーション改善では一定以上の効果を得るのは難しく、顧客情報獲得にはつながらなかったという。
そして「優良な見込み顧客を獲得するためにはデジタルマーケティングを包括的に支援する“仕組み”が必要」という考えに至り、今回、新たな社内実践に取り組んだ。
CX360と連携し広告配信の精度向上
今回の社内実践の最大のポイントは、CX360と連携したAI分析による広告配信の精度向上にある。
1回目に行うのは通常のDSPによる広告配信だが、そこから得られた顧客の反応をしっかり分析。2回目はその結果をもとにコンバージョンの可能性が高い見込み顧客にターゲットを絞った広告配信を行う(西本氏)
アクセス履歴などのデータを取得するランディングページは、同社が運営するWebマガジン「FUJITSU JOURNAL」の記事のほか、コーポレートサイトや製品サイトのコンテンツなどで、それぞれの“読みっぷり”に応じたスコアリングを行う。
このプロセスでの分析に用いたのが「マーケティングAIコンテナ」と呼ばれるソリューションである。下記のような分析モデルがマーケティング現場で即座に活用できるようにパーツ化したものだ。
- 売上予測
- 優良顧客分析
- アンケート分析
- 売上要因分析
- 商品レコメンド
今回は「見込み顧客推定」というコンテナを利用した。
AI手法を活用した見込み顧客推定
見込み顧客推定とは、実際にコンバージョンした顧客の特徴をモデル化し、行動パターンのよく似た見込み顧客をランキングする仕組みである。なぜAI手法を採用したのか。それは、先述のランディングページの訪問者は100万人を数え、それぞれに数万カラムに及ぶ特徴点を処理しなければならないというのが最大の理由だ。
縦横に巨大なEXCEL表のオバケを想像するといいだろう。この膨大なデータを全件評価してスコアリングし、コンバージョンが再現する可能性が高い順にリストアップするのは、AIのパワーを活用しなければほぼ不可能。AIを活用したことで再計算に要する時間が大幅に短縮され、短時間で何度もチューニングを繰り返すことが可能となり実運用に耐えうる仕組みになった(西本氏)
なお、運用上のポイントとして挙げるのは、特徴のよく似たトップ集団ではなく二番手集団をターゲットとすることである。
例えば1000人の見込み客をリストアップして、トップ100に入るような見込み顧客は放っておいてもコンバージョンする。これに対してトップ200~300に位置する見込み顧客は“あとひと押し”が重要で、そこを狙って広告を再配信することでコンバージョン率を劇的に高めることができる(西本氏)
実際にこのアプローチを徹底することで、今回の社内実践では、従来型のインターネット広告に対し、3か月間で約2.5倍の見込み顧客を獲得することができたという。
今後に向けて富士通は、AD Driveのさらなる価値向上を図るべく、独自のロジックによりデジタル広告配信を取り巻く次のようなセキュリティ課題に対応していく。
- ブランドセーフティ:公序良俗に反するサイトや不適切なコンテンツへの広告配信など、ブランドを毀損するような広告掲載への対応
- アドフラウド:ボット(機械)による不正インプレッションやクリック水増しなどによる広告詐欺・料金過大請求を防止
- ビューアビリティ:長いページの最下部に広告が表示されるなど、広告がユーザーに見られない状況を防止
「今後はDSPベンダーとの協業を通じて、富士通らしい『安心安全な』デジタル広告配信サービスの展開に注力していく」と西本氏は述べ、講演を終えた。
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