インタビュー

業績回復のきっかけはスマホ対応! ライフネット生命が取り組んだUI/UX改善

オンラインで申し込める生命保険会社の先駆者ライフネット生命。実はスマホファーストに乗り遅れ、2013~2015年頃は業績が振るわなかった。早急な対応でスマートフォンでの申し込みを改善した施策とは?

オンラインで申し込める生命保険会社の先駆け的存在である「ライフネット生命」。20〜40代の子育て世代をターゲットに、特約のないシンプルな商品を低価格で販売し、急成長を遂げてきた。しかしながら、2013〜2015年頃にはスマホファーストなサイトへスムーズに移行できず、新規申し込みが減少。その原因の1つが顧客体験にあったという。その後、早急な対応でスマートフォンでの申し込みを改善し、2020年には過去最高の業績を上げた。その経緯と具体的な施策などについて、同社CXデザイン部の渡邉直俊氏、市川大貴氏に伺った。

ライフネット生命保険株式会社 CXデザイン部 渡邉直俊氏(左) 市川大貴氏(右)

インターネットで申し込みできる生命保険の先駆け「ライフネット生命」

――まず、ライフネット生命の事業の概要や特長についてお聞かせいただけますか。

市川: ライフネット生命は、インターネットで24時間365日、いつでもお申し込みできる生命保険会社として2008年に設立しました。特約のないシンプルでわかりやすい商品設計と、保険料の見積もりから資料請求、申し込みまで、すべてオンラインで対応していることなどが特長です。顧客層は20〜40代の子育て世代が約8割です。お申し込みをいただく時間も仕事が終わって、家にいると思われる22~24時台が多く、日々忙しい若い世代にも支持されていることが伺えます。そうした皆様のニーズにフィットしたことから、着実な成長を遂げてきました。

また、設立時から一貫して、「正直に経営し、わかりやすく、安くて便利な商品・サービスを提供することで、お客様一人ひとりの生き方を応援する」を理念として掲げ、保険業界では初めて保険料の内訳として手数料を開示するなど透明性の高い情報開示を行ってきました。

ライフネット生命の特長

2020年1月からの1年間は、コロナウイルスの影響もあって新規契約業績が大きく伸長しました。2021年1月には、過去最高記録の2020年4月に次ぐ業績となっています。しかし、実は2013〜2015年頃に新規の申し込み件数が減ってきて、一時期、業績が低迷したことがあります。原因としては、申し込み受付のスマホ対応が十分にできておらず、お客様のご要望に添えていなかったことが大きいと考えています。

2013〜2015年頃に新規の申し込み件数が減少。2020年はコロナウイルスの影響もあって伸長

スマホファーストに乗り遅れた理由は「先入観」

――なぜ、スマホファーストに乗り遅れることになったのでしょうか。

市川: 生命保険会社では最も早く2012年にスマートフォンでの申し込みに対応していたのですが、「かなりセンシティブな個人情報を、スマホで入力する人は少ないだろう」という先入観がありました。そのため、PCサイトが主で、スマホサイトにはあまり注力していなかったのです。そのため、申し込みが減り始めたときには、すぐにスマホサイトのパフォーマンスの課題に限らず、「商品スペックに問題があったのか」「対応が悪かったのか」など、さまざまな仮説を設けて原因を探っていきました。

その調査の中で、PCサイトとスマホサイトのコンバージョンレートに大きな開きがあることがわかりました。世の中の流れとしてPCからスマホへ使用デバイスの主役が移りつつあり、スマホサイトに来ているお客様は急増していました。それなのにPCよりも圧倒的に申し込み数が少ない日もあったのです。そこで、スマホサイトでのお客様の体験に問題があるのではないかと仮説を立てました。

――具体的にはどのような問題があったのですか。また、どのようにして改善を進められたのですか。

市川: 当時のスマホサイトは、PCサイトの画面を置き換えたようなものになっていました。そこでまずは2015年頃から、スマホサイト単体での顧客体験を想定しながら、画面をゼロベースで作り込んでいきました。小さな画面であること、指でタッチすることなどを前提に、可視性・操作性が高いデザインにしました。

スマートフォンでのタッチ操作がしやすいデザインへ改善

また、同業他社のサイトと比較し、どこがどのように良くなかったのかを徹底的に調査した結果、いくつかの気づきがありました。その1つが画面遷移数の多さです。小さなスマホの画面で遷移が多いと操作性が損ねられ、そのために離脱が増えていると考えられました。そこで、情報を集約し、画面を統合するなどの工夫を行いました。

画面遷移数を減らすため、情報を集約

スマホサイトのUX向上は、新機能を導入しただけでは不十分

――改善・リニューアルはもちろんですが、PCとは異なるという意味でスマホサイトのUX向上を意図して設けられた機能などがあれば教えてください。

市川: 現在、スマホサイトでは、2016年7月にLINEを使ったチャットでの保険相談、同年12月に必要書類の写真送付、そして2018年6月には生体認証によるログインなどの機能を提供しています。これらについても、導入しただけでは不十分で、お客様の使用状況を見て、いろいろと改善を図ってきました。

たとえば、必要書類を写真で送信するシステムの場合、お客様がアップロードしてくださった書類が、必要書類とは異なるという問題がありました。画像が間違っているときは、お客様に直接ご連絡してアップロードしなおしていただく必要があり、双方にとって負担になりますし、サービスの提供までに時間がかかってしまいます。そこで、画像のアップロード画面のデザインを改善しました。当初はテキストで案内していましたが、例を画像で出したり、注意点をWeb接客ツールでインタラクティブに見せたり、少しずつ改善してきました。

渡邉: スマホアプリで提供している生体認証ログインについても、技術的なハードルはさほど高くなかったものの、使いやすくするための苦労はありました。たとえば、お客様がどのようなところで迷うのか、間違うのか、契約者様の実際の操作を観察させていただき、それをもとに調整しました。特に、マイページのログインは頻繁に触るものではないのでパスワードを忘れてしまい、多くの方にお手間を取らせてしまっている状態でした。そこで生体認証ログインはやはり必要なんだと実感しましたし、お客様と一緒に顧客体験の改善に取り組めたのは本当にいい経験でした。

スマホにシフトして主流になっていく中で、改めて「私たちのお客様のリアル」をきちんとキャッチアップしなければならないと思いました。たとえば、iPhoneとAndroidの使用比率を国内の一般的な調査と比べると、当社はAndroidからの申し込みも多く、かなり比率が違うんです。そうした実態を把握するかしないかでは、仕様も変わってくるでしょう。

スマートフォンサイトで提供しているサービス

「ストレスフリー」「エンゲージメント」の2軸でより良い顧客体験を

――さらに良い顧客体験を届けるために、現在進行中の取り組みと方針についてお聞かせください。

市川: 新たなお客様とのコミュニケーション接点でいえば、TVCM、オンライン広告やSNS活用、オウンドメディア「ライフネットジャーナル」に加えて、社員ブログなど社員総出のマーケティング活動も行っています。最近は音声広告にもチャレンジしたり、新しいメディアやツールに対しては積極的に取り入れたりしていきたいと考えています。そして、その下支えとしてUI/UXといった自社Webサイトにおける地道な改善活動の積み重ねが大事だと思います。

ライフネット生命が考える顧客体験向上のための2つのキーワード

これらの施策が目指すのは、お客様に「選んで良かった」と感じてもらうことです。そして、それを満たすための基準として「ストレスフリー」と「エンゲージメント」という2つのキーワードを掲げています

まず「ストレスフリー」は、サイト訪問から契約終了までのストレス軽減を目指しています。それは、お客様にとってわかりやすくシンプルな商品に始まり、不明点を解消するための情報提供や申し込みの利便性の向上など、あらゆる接点において言えることです。

そして、「エンゲージメント」については、オンラインだからこそ顧客との接点を重視し、お客様にとって快適なチャネルを提供し、その場に応じた顧客に寄り添うコミュニケーションをはかっていきたいと考えています。

――現在の具体的な取り組みと、課題に感じていることを教えてください。

渡邉: 今、最も課題に感じているのはデータの統合ですね。もともとは顧客情報を一元管理する独自のデータシステムとしてCDPを活用していましたが、先にご紹介したようにお客様とのチャネルはどんどん増えており、それらとの連携が大きな課題となっています。そこで、2018年にCXプラットフォーム「KARTE」を導入し、「KARTE Datahub」を活用して、データ基盤整備を進めているところです。

しかし、オンライン上でのお客様の行動は紐付けしやすくても、オフラインでのお客様の動向や情報は統合が困難です。たとえば、DMや封筒を送った日時のデータ、電話をいただいた内容のデータなどですね。しかし、そうした情報も統合できれば、一人一人のお客様に対して、よりきめ細やかな接客できるようになるでしょう。まだまだ試行錯誤ではありますが、ぜひ取り組んでいきたいところですね。

市川: 行動データからのインサイトをもとにして、顧客に対して必要なタイミングで、必要な情報を提供する「Web接客サービス」が叶えば、より顧客体験は快適になるでしょう。

また、2021年2月にはLINEで見積もりを行い、その内容をLINE上で保存したり、プランを家族に共有したりできる機能の提供を開始しました。実はこれは、見積もりで生年月日や性別を変更しているユーザーが一定数いるという気づきからでした。つまり、パートナーや家族の保険について見積もる人がいるということで、LINE上で共有し、相談できると便利ではないかと考えたわけです。そんなふうに、行動データやインサイトからお客様が求めるものを推察し、より良い顧客体験へと役立てていきたいと思います。

2021年2月から提供しているLINEを活用したサービス

――本日は、興味深いお話をありがとうございました。

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