SNSは常に進化しています。表示アルゴリズムの変化、機能の追加、新しいトレンドの発生など、ユーザー体験が変わるようなアップデートがしばしば行われています。
企業でSNSを運用する場合は、これらの変化も追いかけていくことで、ユーザーとのコミュニケーションを深めていけます。
今回取り上げるのは、Instagramで利用できるSpark ARという機能。メタバースの文脈で注目されており、今後さらに力を入れていくとされる分野です。この記事では、Spark ARの今後の可能性を考えながら、企業が導入するメリットや事例などをご紹介します。
メタバースとは
2021年10月に、Instagramの運営元である米Facebookが、社名をMeta(メタ)に変更しました。これは、同社が取り組みを始めている「メタバース」が由来となっています。
メタバースとは、物理世界では実現不可能なことも可能にできるデジタル空間のこと。その特徴は、単なるスクリーン上の平面世界を超えた没入感。たとえば、物理的な距離が遠く離れている人同士でも同じ空間に一緒にいるような感覚が得られ、そこで起こるイベントや仕事などを共有できるといったものです。
本格的なメタバースの実現はまだ先ですが、その一部といえるのはVRやARです。なかでも、MetaがリリースしているAR機能「Spark AR」は、身近なメタバースといえます。
Spark ARとは
Spark ARは、2017年に旧Facebook社が提供をスタートしたAR機能です。「Spark AR Studio」という専用の開発環境を使用すれば、誰でも簡単に独自のARエフェクトが作成できます。
AR(Augmented Reality、拡張現実)は、実在する風景やものに対して、仮想的な視覚情報を重ねて表示することで、「仮想的に現実を拡張する」ものです。
わかりやすい、身近な例は、スマートフォンゲームの『Pokémon GO』のARモードです。スマートフォンのカメラを通して付近の様子を表示すると、ポケモンが現れます。現実の世界にバーチャルな視覚情報を加えて、仮想的に拡張することで、その場にポケモンがいるように見せているのです。
また、人の顔を認識して、デコレーションする『SNOW』アプリもARです。カードやはがきなどの物理的なものにARマーカーを印刷し、スマートフォンのカメラでARマーカーを表示すると、仮想的な映像が浮かび上がるタイプもあります。
Spark ARでは、作成したARエフェクトをFacebookやInstagram上で公開してユーザーに使ってもらうことができます。さらにInstagram上では、公開されたエフェクトをユーザーがカメラから検索して利用できるようになっています。
ARエフェクトは、写真や動画にエフェクトをつけると目を引く投稿ができることから、多くのユーザーが利用しています。なかでもSpark ARは、通常のARサイトやアプリでARを作成するよりも、多くの人に利用してもらえる可能性があることが魅力です。
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Spark AR活用事例
企業や組織でも、Spark ARのエフェクトを作成し公開しています。
パリ・サンジェルマン
パリ・サンジェルマンはフランスのサッカーチームです。9回目のリーグ優勝を達成した際のプロモーションとしてSpark ARのエフェクトを作成しました。
チームのエンブレムまたはシーズンのユニフォームのエンブレムをARマーカーにして、カメラをエンブレムに合わせることで、エンブレム内で優勝を祝う動画が流れる仕組みです。ファンを楽しませるコンテンツでありつつ、エンブレムがないと動作しないので、ユニフォームの購買促進に影響を与えた可能性があります。
https://www.instagram.com/psg/
ピュレグミ
エフェクトを選択して、録画ボタンを押すと顔を認識し、ARのエフェクトが流れます。
エフェクトの指示に従ってタイミングよくウインクしたりや口を開けたりすると、最後にその判定結果が表示されるゲーム性のある構成となっています。
エフェクトの中でピュレグミのシャリシャリ、もちっとした食感を自然に訴求しています。
https://www.instagram.com/kanro_pure_photo/
スターバックス
顔を認識し、おでこに「あなたはどのスターバックスドリンク?」という文言が表示されたあと、様々なドリンクがスロットで入れ替わり、最後にいずれかのドリンクで止まるという診断系のARエフェクトです。
「今日はどれを飲もうかな」という時に試すと、思いがけない商品との出会いになり、販促効果がありそうです。
https://www.instagram.com/starbucks/
オレオ
商品パッケージの一部をARマーカーとしており、カメラを合わせると、キャラクターが出現してダンスをします。商品を購入したユーザーしか使えないエフェクトのため、購入者の満足度向上、購買意欲促進につながりそうです。
https://www.instagram.com/oreo/
Gentle Monster
ARエフェクトの利用をキャンペーンの参加条件とすることもできます。韓国発のアイウェアブランドのGENTLE MONSTERでは、Gentle MonsterのARエフェクトを使った動画をInstagramのフィードとストーリーズに投稿することをキャンペーンの参加条件としました。
韓国の人気4人組グループ「BLACKPINK」のメンバーの一人、ジェニとのコラボレーションで企画され、キャンペーンの参加ハードルが高いにも関わらず、数多くのユーザーが参加しました。
インフルエンサーを使ってファンを巻き込み、自社のARを使ったUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)創出につながった事例です。
https://instagram.com/gentlemonster/
紹介した事例のように、ユーザーが試したくなるARエフェクトを用意することで、ブランディング、購買意欲促進、ロイヤリティ醸成などにつなげています。
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Spark ARを活用するメリット
Spark ARを活用するメリットとして、次のようなものがあります。
通常のプロモーションよりも拡散性がある
ユーザーの立場から見ると、自分の写真や日常の動画を撮影する時に、Spark ARを加えるだけで、一味違ったコンテンツになるので、フィードやストーリーズに投稿したくなります。また、Spark ARを使ったコンテンツはほかのユーザーの目を引きやすく、シェアしたくなる参加性もあります。さらに、そのエフェクトが仲間のうちで流行れば、それがじわじわと多くの人に拡散する可能性もあります。
スターティアラボ株式会社によるAR活用に関する市場調査レポートによると、約54%の消費者がARを紹介したいと答えているため、ARを使った投稿を参加条件とするようなキャンペーンとの相性も良さそうです。
Instagramでエフェクトを追加するときに、検索でキーワードを入力するので、ブランド名の認知向上、記憶定着の効果もありそうです。
ちなみに、Instagramストーリーズでは、オリジナルで作成したGIFスタンプも配布できます。GIFスタンプの提供も、ARエフェクトと同様にブランド認知の向上に役立てられるため、おすすめです。
企業オリジナルGIFスタンプの作り方については、こちらの記事で紹介していますので、興味があればぜひご覧ください。
関連記事:Instagramストーリーズで使える企業オリジナルGIFスタンプの作り方
興味関心・購入意欲を上げることができる
スターバックスの事例では、ランダムで止まった商品をおすすめドリンクとして紹介しています。「試しに飲んでみようかな」と購入意欲をわかせることができます。
興味関心についても、AR自体が没入感のあるコンテンツであるためフィード投稿やストーリーズ投稿よりもコンテンツ(ブランド)の消費時間が長くなる事が考えられます。
なんとなく購入した商品のパッケージの一部がARマーカーになっていれば、ARエフェクトを試すことで、よりブランドや製品に興味関心を持つようになります。自分がフォローしているユーザーがARを使った投稿をしていれば、そのエフェクトに目を止めて、自分でも試したくなることもあるでしょう。
また、スターティアラボ株式会社によるAR活用に関する市場調査レポートでも、一般消費者の61.3%が実際にARコンテンツを体験した後に、興味関心・購買意欲が上がったと答えています。
親密度を上げることができる
Instagramは、アルゴリズムで使われる重要なシグナル「親密度」を上げる方法の一つとして、ARフィルターを挙げています。
親密度を上げるシグナル
①コメントに反応する
②Instagramライブを活用する
③インタラクティブスタンプを利用する
④長時間滞在させる
⑤投稿をシェアしてもらう
⑤投稿をシェアしてもらう
— Instagram & Facebook マーケティング JP (@FBBusinessJP) December 12, 2019
スターバックス コーヒー @Starbucks_J 様がハロウィン向けの新商品に合わせてリリースされた仮面舞踏会のARフィルターの事例です。
ARフィルターを使うことで、投稿がシェアされやすくなり、親密度が上げることができます。https://t.co/IPlbWVEOiT#IGDAYOSAKA2019 pic.twitter.com/kONMxRsvOo
開発コストがかからない
Spark ARでオリジナルのARを開発する場合、Facebook社が用意している開発ツールをダウンロードして作成します。簡単に作成できるようなテンプレートが豊富に用意されている他、チュートリアル動画も充実しています。簡単なエフェクトならコードを書くことなく開発できるので、他のAR開発ツールよりも敷居が低く、誰でも作成できるのもメリットです。
自社のアカウントのフォロワーもいる、InstagramでARを公開できるので、告知しやすく、ユーザーが使いやすいのもメリットです。
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Spark ARの作り方
ARエフェクトには、顔にエフェクトを出現させるものや空間にエフェクトを出現させるもの、ゲーム性のあるもの、音声に変化を加えるものなど、様々なものがあります。
その中から、今回は比較的手軽に作ることができる、顔にエフェクトを出現させるフェイスフィルターの作り方をご紹介します。
用意するものは以下の4つです。
①Spark AR Studio
②顔に出現させたい画像
③Photoshopなどの画像編集ツール
④FaceReference Assets(jpg)
2.Photoshopなどの画像編集ツールで、Face Reference Assets(顔参照アセット)からjpgファイルを開く
4.不要部分(顔参照アセット)を取り除いて画像を保存する
5.Spark AR Studioを起動し、「Blank Project」から編集画面を開く
6.左下のAssetパネルの「Import from Computer」をクリックして、先ほど作成した画像を取り込む
7.左上のSceneパネルの「+」から、「Facetracker」を選択し、Insertする
8.再びSceneパネルの「+」を開き、「FaceMesh」を選択してInsertする
9.FaceMeshを選択したまま、右側にある「Materials」の「+」をクリックし、プルダウンから「Create new materials」を選択する10.「material1」を選択した状態で、右側の「Texture」のプルダウンから、エフェクトにしたい画像を選択する。これでエフェクトは完成です
エフェクトをプレビューしたい場合は、左側の「Test on Device」からSpark AR Playerアプリを使用してプレビューします。
(詳しいプレビューの方法はこちらをご覧ください)
11.実際にInstagramのストーリーズで使用するためには、Spark AR Hubから公開申請が必要になります。エフェクトが完成したら、「Publish」ボタンをクリックして、「Publish new effect」を選択。「Platform Requirements」が空欄になっている場合は、「Add Experience」を開きます。
12.図のように、「Experience」→「+Add Experience」→「Sharing Experience」→「Insert」の順に選択します
13.「Upload」をクリックして、遷移先の「Spark AR Hub」から申請してください。
完成したフェイスフィルターがこちら!
(執筆者の成田)
所要時間は約30分でした。
気軽に作れるので、これからSpark ARを取り入れたいと考えている方は、ぜひ試しに作成してみてください。
まとめ
FacebookがMetaへ社名変更したことをきっかけに、大手企業も続々と参入を表明している「メタバース」は、今後ますます注目度が上がると予想される領域です。その身近な第一歩として、Spark ARを作成してみませんか。
ブランディングやユーザーとの関係構築にも効果が期待されるため、今後はマーケティングでの重要性も増していくと考えられます。ぜひSpark ARを通して、自社がユーザーにどのような価値を提供できるかを想像してみてください。
どのような内容のクリエイティブにするべきかなど、何かしらでお悩みの場合は、株式会社コムニコにご相談ください。Spark ARの企画や制作の支援のほか、SNSマーケティングのコンサルティングや運用代行なども行っています。
1996年生まれで青森県出身。 2019年株式会社コムニコに入社し、セールスとしてSNSを活用した施策・提案をしてます。
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