コクヨ デジタル アカデミー推薦! 生成AIを活用するデジタル人材になるための5冊!
ChatGPTなどの生成AIは、業務効率化を目的にさまざまな企業が活用を開始している。コクヨでは、人材教育・実践プログラム「KOKUYO DIGITAL ACADEMY(コクヨ デジタル アカデミー)」から生まれた「GPT-Lab(ジーピーティー ラボ)」を、生成AI活用アイデアの実践経験の場として用意している。今回は、コクヨの「GPT-Lab」運営チームを代表して川村真澄さんに、生成AIを理解するのにオススメの書籍をうかがった。
デジタルに注力するコクヨ。変革期のおもしろさを体験したいと入社
川村さんは、2023年5月にコクヨに入社した。前職では、BtoB商材をECで販売する企業に16年務めていた。前半の10年はWebマーケティングを担当、後半の6年は物流のデータ分析基盤の構築を担当するのと同時に、物流の現場のマネジメントやECと物流の全体最適化をはかるためのAI活用にも取り組んでいた。
コクヨに入社したのは、コクヨがゼロからデータ分析基盤の構築に取り組むことを知り、興味を持ったからだ。川村さんのミッションは、データ分析基盤の環境構築と、データとテクノロジーを使いこなせる人材の育成だ。
コクヨは、デジタルに力を入れることを宣言し、現在は変革期です。変革期に携われるおもしろさに惹かれて、入社を決めました(川村さん)
コクヨの人材の育成においては、コクヨグループ社員向けのデジタル人材教育・実践プログラム「KOKUYO DIGITAL ACADEMY(KDA)」があり、講義での座学、実践プログラムを通して、各分野のリテラシーやスキルの獲得を目指している。講座は、文系人材でもAIの基礎知識を習得できる「AI講座」、事業側の社員がシステムをつくるためのスキルを身につける「IT講座」、そして正しいデータ分析について学ぶ「データ講座」の3つがあり、社員が習得したいスキルに応じて参加する講座を選択できる。
「GPT-Lab」は実践経験の場として 、講義で得た知識を使って、オフィス家具の製品企画やBtoB通販での営業など、さまざまな事業の課題を解決する生成AI業務アプリのプロトタイプを非エンジニアである社員たちがつくっている。
GPT-Labの第1期は2023年12月にスタートし、最初の2ヶ月でテーマを決めてプロンプトを磨き上げ、残りの2ヶ月でアプリのプロトタイプ開発を行う4ヶ月のプロジェクトとなった。なお、第1期成果発表会が2024年4月に開催され、授賞式の様子は「Web担当者Forumの記事」でレポートしている。
生成AIを使いこなすために抑えておきたい2冊
1冊目
『ChatGPT時代の文系AI人材になる - AIを操る7つのチカラ』(野口竜司:著 東洋経済新報社:刊)
本書は、生成AIの基本概念から具体的な事例まで幅広くカバーしており、文系がAI人材になるためのステップがわかりやすく解説されていると川村さんは語る。
KDAでは、GPT-Labを開催する前に「文系AI塾」という講座を開催し、生成AIの基本や仕組みなどについて体系的に学ぶ。その講師が、本書の著者であり、コクヨのExecutive Adviser of AI strategy(エグゼクティブAI戦略アドバイザー)でもある野口さんだ。本書は文系AI塾の開催後に発売されたものだが、講座のカリキュラムに沿った内容で、「AIを操る7つのチカラ」の全体感がわかるものになっている。
その7つとは「AI活用マインド」「AIキホン理解力」「AI仕組み理解力」「AI事例収集力」「AI企画力」「AIプロンプト力」「AIマネジメント力」だ。
生成AIの「キホン」「仕組み」から、「AIを操る7つのチカラ」の身に付け方、具体的な活用事例も紹介されていて、自分の仕事に活かすイメージが掴みやすいと思います。講座ではAIマネジメント力をのぞいた6つのチカラについて伸ばすことを目指しており、アセスメント(評価)を実施した結果、講座の受講前後で全員がそれぞれのスキルを伸長させることができました。残るAIマネジメント力についてはGPT-Labで体得してもらうようになっています(川村さん)
なお、本書は生成AIが普及する以前に発売された『文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要』の続編である。
2冊目
『面倒なことはChatGPTにやらせよう(KS情報科学専門書)』(カレーちゃん、からあげ:著 講談社:刊)
1冊目で生成AIの全体像をつかんだ後に、ChatGPT活用の具体的なノウハウを身につけるのに参考になるのがこの本だ。「WebサイトからPowerPointを作成する」「画像の処理を行う」など、具体的な処理にあわせて、どのようにプロンプトを書くか具体例がたくさん紹介されている。書籍内で使用しているプロンプトを公開しているサポートサイトもある。良いプロンプト、悪いプロンプトなど比較した例が出ている点も、理解しやすい。
プロンプトは指示書のようなもので、プロンプト力はAIに指示するスキルです。本書では、AIのポテンシャルを最大限に引き出すためのテクニックが紹介されています。ChatGPTを使っても良い回答が出ないと諦めてしまう方もいるかもしれませんが、プロンプト力を身に付けることで、「これができるならあれもできるのでは?」とアレンジのイメージが広がり、活用の引き出しが増えることを実感できる1冊です(川村さん)
チームで生成AIアプリ開発をするために役立つ3冊
GPT-Labは4ヶ月間の短期プロジェクトだ。異なる事業を担当する、初対面のメンバーが10人以上オンラインで集まってチームとなり、最終的にプロダクトのプロトタイプを作り上げる必要がある。その時に役立ったのが次の3冊の書籍だ。
3冊目
『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』(エリック リース:著 井口耕二:訳 伊藤穰一:解説 日経BP:刊)
本書では、製品・サービスを開発する際に知っておきたい手法として「MVP(Minimum Viable Product)=実用最小限の製品」について、知ることができる。最低限の機能を持つ製品をまずは作り、ユーザーからのフィードバックを得て改善をしていくプロセスを通し、効率的に製品を開発する手法を紹介している。
このMVPの考え方を用いて、生成AI業務アプリで解決したい課題・テーマについて、まずは「プロンプトでコアの価値検証を行うこと」が重要だったという。予算や時間には制限があるにも関わらず、壮大すぎるテーマを設定してしまう場合もあり得るからだ。
プロンプトだけでは実現が難しい、システム開発を伴う構想が多数あったので、MVPの考え方を用いたアプリ開発のハンズオンを行いました。ハンズオンでは、アプリの価値検証のためのプロンプト作成と、IPO(Input-Process-Output)のフレームワークで全体像と処理の流れを明確にする演習もしています。生成AI活用の解像度があがり、発想の幅が広がったと参加者からとても好評でした(川村さん)
MVPで効果が出ることを証明できれば、短期間でも成功確率の高い開発を行うことができる。
まずはプロンプトで価値検証をしてみて、もしプロンプトで実現できないのであれば、その課題は生成AIで解くには適していないかもしれません(川村さん)
4冊目
『生成AI時代を勝ち抜く事業・組織のつくり方』(梶谷健人:著 日経BP:刊)
この本では、生成AI時代の事業・サービスのつくり方、組織づくりについて、具体的なアプローチを学ぶことができるという。
たとえば、プロダクトをつくる際には「意義」と「意味」の明確化が重要だとわかります。意義として「解決しようとしている課題は、顧客(ユーザー)が本当に困っていることなのか?」を探り、意味として「本当に生成AIである必要性があるのか?」を探る必要があります。GPT-Labでは、開発プロセスの中でユーザーインタビューやアンケートを実施して、「ユーザーが本当に困っていることは何か?」を突き詰めることができていたと思います(川村さん)
また、生成AI時代を勝ち抜く組織としての「生成AIネイティブな組織」のつくり方を、具体的に示している。本書では、組織を生成AIネイティブにしていくプロセスを3つのフェーズに分けているが、川村さんは特にフェーズ1の「意識の共有と準備」が重要だと語る。
生成AIネイティブな組織をつくる際には、最初に組織の上位レイヤーがコミットしてビジョンを決め、コアなチームを設置する、と書かれています。コクヨの場合は、経営層がデジタル人材を育成するというビジョンを掲げ、実践を含めてKDA(GPT-Labを含む)がコアチームとして存在しています。GPT-Labで完成させた業務改善・価値創造のアプリ16個を、コクヨの経営層とグループ全社員、そして社外の有識者に向けてその効果をプレゼン(成果発表会)したことで、「意識の共有」が一気に進み、特に「自分もやってみたい」というモチベーションを高めることができました(川村さん)
5冊目
『Azure OpenAI ServiceではじめるChatGPT/LLMシステム構築入門 エンジニア選書』(永田祥平、伊藤駿汰、宮田大士、立脇裕太、花ケ﨑伸祐、蒲生弘郷、吉田真吾:著 技術評論社:刊)
本書は技術書で、最初はハードルが高いかもしれない。しかし、イメージ図がわかりやすく、LLM(Large language Models:大規模言語モデル)を用いたシステムに関する設計の思想やポイントを広く学ぶことができると、川村さんは5冊目のオススメ本として紹介してくれた。
GPT-Labで生成AI業務アプリを開発する際には、各チームをサポートする社内の技術支援のメンバーたちの伴走があった。支援メンバーは、チームメンバーと共に学びながら、手を動かして実装方法を検討することも多かったという。答えを教えるのではなく、共に探索しながらサポートする中で、彼らが参考になったのがこの1冊だ。
構成として初級、中級、上級と分かれていますが、中級まで読めば、GPT-Labで扱ったテーマをサポートするのに必要な知識を網羅できたそうです。 本書はAzure を前提にしていますが、他のサービスでも同じ考えを適用できます(川村さん)
レベルアップしていくための情報収集方法
最後に、継続してレベルアップしていくための情報収集方法をうかがった。KDAの運営チームでは、普遍的なことは書籍から吸収し、速報や変化をキャッチアップしていく方法として、Xの情報を参考にしているという。
- @fladdict(深津貴之氏)https://x.com/fladdict
- @ctgptlb(ChatGPT研究所)https://x.com/ctgptlb
- @kajikent(梶谷健人氏)https://x.com/kajikent
- @shota7180(木内翔大氏)https://x.com/shota7180
さらに、検証されている情報を得るために、スライドをシェアできる「Speaker Deck」やクラスメソッドのオウンドメディア「DevelopersIO」などを参考にしている。「生成AI」などのキーワードで検索すると、検証記事がまとまっており、定期的にチェックして知識をアップデートしているそうだ。なお、クラスメソッドにはGPT-Labで技術サポートを依頼している。
今回は、コクヨの取り組みを踏まえて、生成AI関連の書籍を紹介してもらった。プロジェクトを実施するために書籍を役立てていることがわかった。技術革新の早い世界なので、書籍では普遍的な内容を体系立てて抑えて、オンラインの情報も組み合わせて情報収集していくのがよさそうだ。
川村 真澄(かわむら ますみ)
Bサプライ事業戦略室 データドリブン推進 ユニット長
2023年5月、コクヨにキャリア入社。前職では通販企業でECマーケティング、物流のデータ分析基盤構築、全社課題でのAI活用業務等に携わる。コクヨではデータ分析基盤の構築と、デジタル領域(AI・IT・データ)の知識とスキルの習得を目指す「KOKUYO DIGITAL ACADEMY」の運営を行っている。
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