Webサイトのレスポンス速度から見るインターネットユーザーの閲覧行動と企業の課題
- 調査の目的と背景
- レスポンス調査の目的
- ページの表示速度は事業に大きな影響を及ぼしている
- 企業が考える課題と真の課題
- ECサイトでの検索機能の重要性
- ECサイトの検索機能と表示速度の関係
- 調査結果
- 調査結果概略
- 全体の平均は0.64秒。検索結果ページは課題がある
- 商材の多さ、カテゴリの複雑さが速さに影響。企業格差は大きい
- ECサイトでは全体的に速度が低下
- フリーワード検索の平均速度が1秒超。検索の種類によっても差がある
- 1秒以内に返す割合と3秒以上かかる割合はほぼ反比例
- 3秒以上かかったレスポンスの平均速度は業種ごとにばらつきがある
- 「医療化粧品小売業」「娯楽業」は2割強が1秒超
- ECサイトにおける3秒以上のレスポンスは一日を通して一定量
- 一週間のうち平日の後半に速度が低下土・日は速い
- 木、金の12時~17時台が速度低下のピーク
- BtoB向けサイトでは週明けに速度が低下
- ECサイトは木曜日、ECサイト以外は金曜日がピーク
- ECサイト以外の衣料・アクセサリー小売業は日曜日にピーク、食料品小売業ではECサイト以外の方が速度が低下
- 昼休みの時間帯のレスポンスが最も低下
- 平日のメディアは通勤時間帯がピーク
- ECのみでも昼休みの時間帯がピーク、衣料・アクセサリー小売業、総合小売業では夜
- まとめ
- 業種の差は負荷に対する意識の違いか
- スマートデバイスの影響が浮き彫りに
- 速度に関する今後の課題
パソコンだけではなく、スマートフォンやタブレットをはじめとしたスマートデバイスが台頭し、屋外・商業施設内・店頭でのインターネット接続環境が整備されている。Webサイトが時間・場所に関係なく常に閲覧される現代、サイト訪問者の快適な閲覧環境は整備されているといえるのだろうか?
閲覧環境に大きな影響を与えるWebサイトのレスポンスに着目し、各社のWebサイトの実態を調査した。
(調査概要は記事末尾に記載)
調査の目的と背景
レスポンス調査の目的
1995年のインターネットの登場以来、Webページは爆発的に増え続けている。情報の検索、広告の露出、ショッピング、道案内などサービスの充実に加え、スマートフォンをはじめとするスマートデバイスの普及により、インターネットは人々の日常生活に欠かせないものになった。
インターネットが一般に普及し始めた当初、接続方法はアナログ回線やISDN回線によるダイアルアップが主流で、Webサイトを作る際には画像サイズを小さくするなどレンダリングに時間のかからない工夫が不可欠であった。その後時代はブロードバンドに差し掛かり、ネットワークの高速化に伴ってWebページの表示速度に注意してサイトを制作することは少なくなった。映像や音声データなどの大きなサイズのデータがWebページで利用されるようになったのもこの頃である。しかし、ビッグデータ活用のブームによるデータ処理速度の課題、スマートデバイスの普及による通信環境の変化により、Webサイトの表示速度は再度注目されるべき課題となっている。膨大な数のWebサイトが存在する今日、アクセスする訪問者の環境はデバイスも通信方式もさまざまであり、またグローバルに展開する場合は国ごとの回線速度の違いも考慮する必要がある。
1995年~ |
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現在の日本のWebサイトにおいて、自社が運営するWebサイトのユーザーにとってのレスポンス速度を正確に把握し、適切な対策を行っているところはまだ少ない。完璧に対応するとなれば、スマートフォンだけでもOS、機種、キャリアごとの回線速度など何通りもの動作を確認する必要があり、手が回らないのが実情であろう。
このような状況を踏まえ神戸デジタル・ラボ(以下、KDL)では、現代の企業が意識すべき課題を明確にするための支援として、企業が運営するWebサイトのレスポンス速度を測定し、事業ごとの傾向を調査した。
ページの表示速度は事業に大きな影響を及ぼしている
2010年の春、米Googleが検索順位の決定要素のひとつとしてWebサイトの表示速度を考慮することを発表したが、影響範囲は極めて少なく企業がこぞって対策に乗り出す要因にはなっていない。「検索」というサービスが提供する価値は検索したユーザーの意図に応じて適合するページを表示することであり、「適合しているページの表示速度が遅いので検索結果の上位に表示されない」という結果にはなり得なかったということだろう。
Webサイトを事業の主軸のひとつとしている企業にとって、SEO対策やコンテンツの充実、ユーザビリティの向上はすでに常識となっている。多くの企業が、検索エンジンで上位に表示されるためのキーワード選定やリスティング広告、サイト内で迷わないためメニューの工夫、コンバージョンまでの適切な誘導など、時間とコストをかけて対策していることだろう。しかしWebページの表示速度は、アクセスしてからサイトに滞在している間常に付随してくるものであり、ユーザビリティ対策を施したコンテンツを見るには表示速度が必ず通過点となることを忘れてはならない。つまり、表示速度への配慮なしにはユーザビリティは実現できないのである。
実際に、各種の調査や研究の結果、わずかな表示速度の差であっても、ユーザーの行動にはその影響が現れてくることが指摘されている。Amazonの調査では、ページの表示速度が0.1秒遅くなると、売り上げが1%低下することが明らかになった。Googleからは、ページの反応が0.5秒遅くなるとアクセス数が20%低下すると発表されている。さらに米Aberdeen Groupの2008年の調査では、スピードが1秒遅くなるとページビューが11%、コンバージョンが7%、顧客満足度が16%低下することが報告されている。
企業が考える課題と真の課題
Webサイトの表示速度の影響についての調査は認知されつつあるが、日本で表示速度に対して万全に対策をとっているサイトはまだ少ないのが現状である。
実際にWebサイトの運営企業にヒアリングを行うと、自社サイトで速さが課題だと認識しているケースはほとんどない。インプレッション数やCTRなどの即効性のある指標が注力され、SEO対策や広告に投資することが集客対策の主軸と考えられていることが伺える。またサイト側では、ページのデザインや売る商品、ページ内での利便性には注力しているが、訪問者がそれを見るまでに何秒かかるかはほとんど意識されていない。
なぜページビューが増えないのか、なぜ直帰率が高いのか、それがページの表示速度に起因することに気づかないままコンテンツの内容について議論しているかもしれない。アクセスからコンバージョンまでを俯瞰的に分析し、明確な課題は何なのか、本当に投資すべきところはどこなのかを根本から考える必要がある。
ECサイトでの検索機能の重要性
近年スマートデバイスの普及に伴って、O2O(Online to Offline)などの戦略が注目を浴び、実店舗と連動するECサイトを立ち上げるなどのケースが増えている。1990年代までは雑誌が主流だったカタログ通販も、ECへの切り替え、併用がほとんどとなった。インターネット利用人口の増加とともにECサイトの利用顧客は年々増え続け、比較サイトなどの影響もあり競争は激化している。このようなECサイト市場で、競争優位を実現するために対策すべきこととは何だろうか。
KDLの調査では、ECサイトの全アクセスの約60%で検索機能が動作しているという結果が明らかになった。ECサイト内での検索はきわめて明確な顧客のニーズであり、ここから希望の商品に速やかに誘導することがコンバージョンを上げるもっとも大きな施策である。特にスマートデバイスでは、パソコンを使い慣れない中高年や主婦などの顧客層も多いであろうことから、簡単に希望の商品にたどり着けるよう、絞込みやサジェスト(検索キーワードの入力途中で、候補となるキーワードを表示させる機能)などの利便性の高い機能を充実させることも重要である。
ECで取り扱うカテゴリも拡大かつ細分化され、検索方法も多様化している。たとえばアパレルであれば色や雰囲気、素材などで絞込みできるなど、利便性の高い検索方法を取り入れるサイトも増えている。
ECサイトの検索機能と表示速度の関係
ECサイトの市場では、今多くの企業がスマートフォンユーザーの取り込みを図るため、モバイル対応はもちろん、モバイルでの利便性を考慮した検索機能の改善を進めている。しかし利便性を追求するあまり機能を多くしすぎて、検索した結果の表示が遅ければ本末転倒である。検索のたびに何秒も待たされるのでは、どんなにコンテンツが充実していてもページを閲覧する前に離脱してしまう。特にスマートデバイスではいつでもどこでもアクセスできることから、購入の意欲が高まっているそのときに検索している可能性が高く、かつ移動時間・休憩時間・就寝前などちょっとした短い時間に断続的に利用することが多いと言われている。そのため関心が高まり検索をしたその瞬間にニーズに合った結果をできるだけ早く表示することは、コンバージョンにつながる非常に重要な施策である。
回線やデータセンター、サーバーなどの経路をアクセスしてくるユーザーにとって、レスポンスの速度はいわば実店舗までの距離やアクセスのしやすさなどの立地に等しい。検索結果の表示が遅いということは、今この瞬間にも多額の売り上げを潜在的に損失しているといえる。
調査結果
調査結果概略
主に、全体、業種別、曜日別、時間帯別に平均値を比較して分析を行った。レスポンス速度を決定する要因はサーバーやネットワーク、ブラウザ上のレンダリングなどさまざまあるが、日や時間帯による劣化の大きな要因はトラフィックの増加による負荷である。スマートデバイスが普及した現代では、物理的にインターネットに接続できない時間帯はほぼなく、いつでもどこでも接続できるようになった。これにより、ユーザーの手の空いた時間、興味・関心が湧いたときに希望するサイトにアクセスすることが多くなり、物理的な状況よりもユーザーの行動パターンや企業の販促・宣伝活動などの戦略が大きく反映された結果となった。
全体の平均は0.64秒。検索結果ページは課題がある
表1では、レスポンスの平均速度を、画面、曜日などさまざまな角度から比較した。全体の平均は0.64秒と優秀な結果である。しかしサイト内検索結果ページに絞り込むと、サイト内検索結果ページのみでは0.93秒と顕著に速度が低下している。サイト内検索は検索リクエストに応じてDBに問い合わせを行い結果を表示する。DBはシステム全体の中で、最も処理が集中しやすく、処理が複雑になりやすいため速度低下の要因となりやすく、多くのサイトで課題を残している印象である。
全体 | 0.64秒 |
サイト内検索結果ページ | 0.93秒 |
サイト内検索結果以外のページ | 0.34秒 |
平日 | 0.65秒 |
土日 | 0.61秒 |
商材の多さ、カテゴリの複雑さが速さに影響。企業格差は大きい
業種別レスポンス平均速度(グラフ1)で顕著に速度が遅かったのは、医薬品・化粧品・衛星用品を販売している「医薬化粧品小売業」で1.14秒、続いてペット・ガーデニング・楽器ゲームなどを商材としている「娯楽業」(1.08秒)、スポーツ用品・本・CDなどを商材としている「スポーツ・本・音楽・玩具小売業」(0.74秒)など、商材、商品が多様な業種が並んだ。商材の多さ、カテゴリの複雑さによる負荷がレスポンスに影響していることが考えられる。
「製造業」に代表される企業向けのサイトのように、Webサイトをビジネス基盤としない業種では、レスポンスに影響する程の負荷が日常的にかかることはまずなく、速度は課題とはなっていない。一方で、Webをビジネスの主軸のひとつとしている「ポータル」や「人材派遣」「IT」などの業種では0.4秒未満と安定している。早くからビジネスにWebを取り入れたこれらの業種はダイヤルアップ通信時代から速度に取り組んできたこともあり、速度に対する意識が高いことが考えられる。
速度で下位に位置する業種でも一概に遅いという結果ではなく、企業ごとに格差が大きいことも特徴的である。たとえば、「医薬化粧品小売業」の企業別の平均速度では、最速は0.05秒、もっとも遅い企業で14.78秒と大きな差がある。
銀行や証券会社・保険会社を代表とする「金融業」の業種の平均は0.80秒で下位に位置しているが、これも企業の規模による格差が非常に大きい。商材が主に影響しているサイトとは異なり、サービスの利用者数の影響で格差が生じていると考えられる。企業別にみると、証券会社など、1秒を争う業種ではおおむね速い傾向が見られる。
ECサイトでは全体的に速度が低下
ECサイトのみに絞り込んたレスポンス平均速度(表2)は、全体の平均速度(表1)と比較すると全体的に低下し、特に売上に直結しやすいサイト内検索結果ページでは、0.98秒という結果である。
ECサイト全体 | 0.67秒 |
ECサイトのサイト内検索結果ページ | 0.98秒 |
ECサイトのサイト内検索結果以外のページ | 0.45秒 |
ECサイト平日 | 0.67秒 |
ECサイト土日 | 0.64秒 |
ECサイトのみの業種別レスポンス平均速度(グラフ2)では、「医薬化粧品小売業」(1.44秒)、「娯楽業」(1.14秒)が突出して遅いが、ECサイト全体の平均である0.67秒よりも遅かったのはこの2業種に加え「宿泊・旅行業」(0.68秒)を含めた3業種である。「宿泊・旅行業」は全体の平均(グラフ1)では目立たなかったが、日程やエリアや人数、こだわりなど多様な検索方法が速度の低下に影響していると考えられる。
フリーワード検索の平均速度が1秒超。検索の種類によっても差がある
検索種類別平均速度(表3)を見ると、フリーワード検索で1秒を超える1.19秒という結果となった。カテゴリ検索とフリーワード検索で業種別に平均速度を比較する(グラフ3)と、「娯楽業」「家具・家庭用品小売業」「自動車・パーツ小売業」で、フリーワード検索とカテゴリ検索の速度差が1秒以上離れている。これらはいずれもフリーワード検索の速度が大きく上回っている。
カテゴリ検索結果 | 0.79秒 |
フリーワード検索結果 | 1.19秒 |
フリーワード検索はカテゴリ検索のようにデータベースの項目名のみを検索する方法とは異なり、全データを走査する。そのため、フリーワード検索の対象が商品名か詳細文にまで及ぶかどうかなどにもよるが、一般的にはデータ量に伴って検索時間が増大する。検索軸によって速度に差が出ている可能性は認識しておくべきである。
1秒以内に返す割合と3秒以上かかる割合はほぼ反比例
Nielsen Norman Groupによると、人間の操作に対するシステムの反応速度でユーザーのー思考を止めない限界は1秒だという。また2012年に開催されたSearch Marketing Expoでは、ユーザーがページの表示に待てるのは2秒まで、3秒以上かかると40%以上のユーザーが離脱することが発表された。
グラフ4では、レスポンス全体のうち1秒以下、1秒超~3秒未満、3秒以上のレスポンスの割合を業種ごとに比較した。全体での3秒以上の割合は、5.49%。1秒以下で返す割合は、3秒以上かかる割合にほぼ反比例している。3秒以上の割合では、全体の平均(グラフ1)の上位である「娯楽業」(12.1%)と「医薬化粧品小売業」(11.96%)が突出している。続く「宿泊・旅行業」(9.34%)、「公共」(8.28%)は、全体の平均(グラフ1)では平均以下である一方で3秒以上の割合が高めという結果となった。
3秒以上かかったレスポンスの平均速度は業種ごとにばらつきがある
グラフ5では、3秒以上かかったレスポンスに絞り込み、その平均速度を業種別に比較した。3秒以上の速度の平均は3秒以上かかったレスポンスの割合とは無関係で、業種により最大6.07秒と大きな差があった。全体の平均(グラフ1)、3秒以上のレスポンスの割合(グラフ4)で同程度の数値だった「娯楽業」と「医薬化粧品小売業」は、3秒以上の平均値ではそれぞれ5.68秒、9.28秒とはっきりとした差が表れた。
「医療化粧品小売業」「娯楽業」は2割強が1秒超
3秒以上のレスポンスのうち、ECサイトのみに絞り込んだ平均速度は6.67秒でECサイト以外を含めた全体の3秒以上のレスポンスの平均速度7.18秒より速い結果となった。
3秒以上かかったレスポンスの割合が突出しているのは、グラフ1、グラフ2、グラフ4同様「医療化粧品小売業」と「娯楽業」である(グラフ6)。この2業種は、1秒以下の割合においても全体(グラフ4)、ECサイトのみ(グラフ6)いずれにおいても他に比べてかなり少なく、3割弱が1秒を超えるなど全体的に課題を残している。
ECサイトにおける3秒以上のレスポンスは一日を通して一定量
3秒以上のレスポンスの平均速度を時間帯別で示すと、ECサイト(グラフ7)とECサイト以外(グラフ8)で大きな違いが見られる。ECサイトはバッチ処理時以外は平均速度が安定している一方、ECサイト以外では全体的に安定せず、1秒近くの高低差があった。時間帯別の詳細については後述するが、3秒未満を含む全レスポンスにおける時間帯別の結果では昼と夜に低下するピークがあり、ここでの結果とはかなり異なっている。
一週間のうち平日の後半に速度が低下土・日は速い
曜日別レスポンス平均速度(グラフ9)では、平日の後半である木・金に速度が低下し、土日は顕著に速くなっている。多くの社会人が休日である土日にインターネットに没頭する人口が多いとは考えにくく、アクセスが少ないことが土日の速度回復の一因と予想できる。また、平日のように昼休憩や帰宅後などの決まった時間帯に集中することが少ないのも安定した速度を保っている要因であろう。
木、金曜日の速度低下は、ECサイトで土日に商品が届くように注文するユーザーが多いためにアクセスが増えると考えられる。また、週末に向けてイベントなどの情報を収集するユーザーが多いことも考えられる。
木、金の12時~17時台が速度低下のピーク
時間帯ごとの曜日別平均速度(グラフ10)を見ると、6時~11時台、12時~17時台では全時間帯同様に木、金の速度低下が見られるが、18時~23時台の時間帯のみ傾向が異なり平日の前半の方が速度がやや低下している。12時~17時台は曜日による速度差が大きく、木曜日と日曜日で0.1秒以上の差がある。全体的な一週間のサイクルとしては、木、金曜日の昼休みにWebサイトを閲覧して情報を集め、土日の閲覧は少なめという行動パターンが見えてくる。
BtoB向けサイトでは週明けに速度が低下
「医療化粧品小売業」では、月、火が最も遅く、週末に向けて徐々に低くなっている(グラフ11)。「医療化粧品小売業」内で詳細をみると、BtoC向けのサイトは全業種の平均と同じく水、木のレスポンスが低下するが、たとえば株式情報や医療関係者向けのコンテンツがあるなど、BtoB向けのコンテンツが主体のサイトは週明けにアクセスが増える傾向が見られ、レスポンス速度が低下する傾向がある。
「宿泊・旅行業」では、月曜日と木曜日に大きく低下がみられた(グラフ12)。詳細は掲載していないが、ツアー系のサイトでは月曜日にレスポンス低下のピークがあり、ホテルのサイトでは木曜日にピークがある。
ECサイトは木曜日、ECサイト以外は金曜日がピーク
ECサイトとECサイト以外に分けて曜日別のレスポンス平均速度の推移をみると、ECサイト(グラフ13)では木曜日、ECサイト以外(グラフ14)では金曜日に速度低下のピークがある。ECサイト以外では曜日ごとの速度差が大きく、土日の速度の回復が顕著である。
ECサイト以外の衣料・アクセサリー小売業は日曜日にピーク
食料品小売業ではECサイト以外の方が速度が低下
ECサイトの目的が商品の販売であるのに対し、ECサイト以外では商品の詳細な情報や企業の情報など情報発信が主な目的である。ユーザーの目的と表示速度を併せて考えると、行動パターンを推測できる。たとえば、「衣料・アクセサリー小売業」(グラフ15)では、ECサイト以外は日曜日の速度が低下している。主にブランドサイトなどが対象となっているが、ユーザーが週末に実店舗で見かけた商品などの商品情報をブランドサイトで確認するケースが予想できる。
「食料品小売業」(グラフ16)では、「衣料・アクセサリー小売業」とは異なり、ECサイト以外の方が全体的に速度が遅い。また、ECサイトは全業種と同じく速度低下のピークは木曜日だが、ECサイト以外では全体的に速度が低下している。「食料品小売業」はメーカーサイトなどでキャンペーンやレシピ情報などを掲載していることも多く、大手では実際の商品パッケージや広告、テレビCMから商品サイトに多数流入しているであろうことから、メディアと連動して多くのアクセスがあると考えられる。
昼休みの時間帯のレスポンスが最も低下
時間帯別のレスポンス平均速度では、全業種の平均速度(グラフ17)で8時台から速度は遅くなり、12時台にピークを迎えたのち徐々に速くなっている。その後19時台を境に再び速度は低下しはじめ、22時以降はまた速くなっている。多くの社会人の生活と照らし合わせてみると、昼休みと就寝前の時間帯にWebサイトの閲覧が多く、速度に影響していると考えられる。
就寝前より昼休みの時間帯の方がレスポンスが低下していることは注目すべきである。スマートデバイスの普及およびモバイル接続環境の整備により、PCにあまり関わることのない職種のユーザーも昼休みに私用のスマートフォンなどからアクセスするようになったと考えられる。昼休みの時間帯のWebサイトへのアクセスはここ数年で、大きく増加したことであろう。
平日のメディアは通勤時間帯がピーク
平日と土日で時間帯別の平均速度を比較すると(グラフ18)、昼間の時間帯の速度差が顕著に表れている。土日は平日に比べて、一日を通してWebサイトの閲覧行動が少ないことが予想される。
特徴的だったのは「メディア」(グラフ19)で、午前4時台から6時台に急激に低下した速度が午前10時台まで持続し、以降は急速に回復している。メディアはニュース記事が中心のサイトが多く、通勤から始業時間前のトラフィックが集中していることが考えられる。一昔前まで通勤中や始業前に読まれていた新聞が紙媒体からインターネットに代わり、通勤中に閲覧されるようになったことが考えられる。
なお、早朝3時~5時が低下するのは、各サイトで購買や取引データのバッチ処理を行っているためである。
ECのみでも昼休みの時間帯がピーク
衣料・アクセサリー小売業、総合小売業では夜
ECサイトのみの時間帯別のレスポンス速度の推移(グラフ20)を見てみると、全体での結果(グラフ17)と類似の結果が得られた。業種別に速度低下のピークの時間帯を調べてみると、「衣料・アクセサリー小売業」(グラフ21)、「総合小売業」のみ夜の時間帯に速度低下のピークがある(グラフ22)(※ただし、バッチ処理の時間帯(2時~5時台)を除いて集計)。また、検索画面に絞り込んだ際にもピークは夜の時間帯にシフトした(グラフ23)。
夜の時間帯、つまり帰宅後~就寝前にサイトを閲覧するメリットは、時間をかけて閲覧できることである。じっくり検討したい商品ほど夜の時間帯に、検索機能を利用して閲覧していると考えられる。昼休憩や移動時間などのいわゆる「隙間時間」に閲覧した商品を、帰宅後にじっくり見直し比較検討するという行動は十分に考えられる。
まとめ
平均的には、実感の印象よりも安定した結果が得られた。今回の調査では通信環境が一定なのでそう感じるのかもしれない。企業格差は業種にかかわらず大きく、また一時的な負荷に弱いサイトも目立った。
業種の差は負荷に対する意識の違いか
今回の調査では、「医療化粧品小売業」「娯楽業」が全体的に課題が大きい印象である。ECサイトでの課題は商材の複雑さ、商品点数の多さなどが速度に関連してくるが、商品点数にの多さの割に今回の結果では問題が見当たらなかったのが「総合小売業」である。もともとカタログ通販事業を行っていた企業や百貨店が多く、ECサイトではお中元、クリスマス、お歳暮などの時節によるギフト品の売上が多いことから、アクセス集中に対する意識は高いのかもしれない。負荷対策を予め施しているかどうかが表れている可能性がある。
スマートデバイスの影響が浮き彫りに
今回の調査で、ユーザーのライフサイクルに寄り添った閲覧行動が想像できる結果が得られたことは、スマートデバイスの台頭によるところが大きい。また、ユーザーがよく閲覧する時間帯に合わせて運営企業側がメルマガやセールなどの宣伝活動を行うなど、ユーザーのライフサイクルに合わせて運営を行っていることもアクセス集中に拍車をかけている。テレビコマーシャルやメルマガに加え、携帯クーポンなど携帯電話やスマートフォンを利用した販促ツールなどと連動したプロモーションで、アクセスが増加するなどのケースも多いだろう。
速度に関する今後の課題
現在は、アクセスログを確認して全体的にトラフィックの多い時間帯にセールを打ち出したり、クリック率の高い曜日にメルマガを打つなど、コアターゲット層のライフサイクルの傾向に合わせて対策している企業が多いのが実情である。しかし、ECサイトによっては社会人や主婦、学生などユーザーが幅広く、それぞれライフサイクルは変わってくるはずである。スマートフォンやソーシャルメディアなどによりユーザー個々人のライフログが記録されている現代、さまざまなパーソナルデータを活用して顧客一人ひとりに合わせた戦略を行うのもまた速度への対策であり、ひいては顧客満足・売上向上につながるであろう。一時的な負荷に弱く安定しない場合は、通常時に合わせてインフラを準備したことが原因のひとつと考えられる。インフラ選定時には、通常時、セール時、バッチ処理時などの負荷の違いを考慮し、どこに照準を合わせるかを熟考すべきである。加えて、ECサイトは特に商品点数やカテゴリなどの変動が大きく、規模の成長に応じてアクセス数も変動することから、定期的にサイジングを行いシステムを見直すなどの対策が必要である。
調査概要は次のとおりである。
- 調査対象企業:
調査対象BtoCのECサイトの売上上位企業、及びWebを活用した事業に注力していると弊社が判断した企業の中から無作為に選出
- 調査対象企業数:
986社
- 調査業種:
日本標準産業分類の産業分類に基づき、以下の業種に分類した。
- IT
- スポーツ・本・音楽・玩具小売業
- ポータル
- メディア
- 衣料・アクセサリー小売業
- 医療化粧品小売業
- 飲食業
- 運送業
- 卸売業
- 家具・家庭用品小売業
- 学習
- 機械
- 金融
- 娯楽業
- 交通
- 公共
- 自動車・パーツ小売業
- 宿泊・旅行業
- 情報通信業
- 食料品小売業
- 人材派遣
- 製造業
- 総合小売業
- 電機製品小売業
- 不動産
- その他
調査方法
対象としたサイトの一定の種類のページに対して、レスポンス速度を測定するためのスクリプトを、15分間隔で実行した。ここで表す「レスポンス速度」とは、HTTPリクエストを送ってからそのページのHTMLソースがすべて返ってくるまでの時間を指す。
一定の種類のページとは次のとおりである。
- トップページ
- サイト内検索結果(フリーワード、カテゴリ)ページ
- 会員ログインページ
- 特集ページ
調査データ概略
- 調査した期間: 2013年6月5日~2013年7月26日(52日間)
- 調査のために取得したデータ件数: 11,565,969件
コメント
調査手法が表示速度の計測になっていません
「レスポンス速度を決定する要因はサーバーやネットワーク、ブラウザ上のレンダリングなどさまざまあるが、日や時間帯による劣化の大きな要因はトラフィックの増加による負荷である。」
と書かれていますが、これを実証する証拠、データはお持ちなのでしょうか?
私は、この3年、定常的に様々な日本のWebサイトのパフォーマンス計測を行い、データを分析していますが、現状のパフォーマンスの劣化の主要な要因は、Facebook、Twitter、mixiのようなSNSのボタン、広告配信、Google AnalyticsやSiteCatalystの計測ビーコン、VeriSignなどのSSLシールなどの遅延です。
この調査の計測は、巷で思われている「トラフィックスの増加が負荷の原因となって遅延する」という、想定された原因ありきになっていると思います。だから、HTMLソースのレスポンスタイムを計測するという手法になったのでしょうか?
しかし、「Nielsen Norman Groupによると、人間の操作に対するシステムの反応速度でユーザーのー思考を止めない限界は1秒だという。」という文章を出されるのであれば、HTMLのレスポンスタイムの数値ではなく、表示速度を数値として挙げて解説しなければ、意味がありませんし、操作可能時間(Time to interactive)の数値を計測しなければ、実際の操作時の没入感を阻害しているかどうかを判断できません。
その調査方法「ここで表す『レスポンス速度』とは、HTTPリクエストを送ってからそのページのHTMLソースがすべて返ってくるまでの時間を指す。」とありますが、記事のタイトルとなっている「Webサイトの表示速度から見るインターネットユーザーの閲覧行動と企業の課題」の、Webサイトの表示速度とは関係がありません。
ご存知だとは思いますが、ブラウザがレンダリング処理を行うためには、HTMLソースだけではなく、CSSやOnloadで指定されたJavaScriptを読み込み、DOM処理を全て行わなければいけません。それから、表示が開始されるのです。
その点をW3C Web Performance Working Groupでは重要視して、W3C Navigation Timeingという、Webサイトのパフォーマンス計測の標準メトリクスを制定したのです。
表示開始時間については、Navigation Timing 2において、prerenderSwitchという属性で定義されています。
ブラウザ開発者の間では、通称First Paintとして(オブジェクト名や属性名は異なりますが)、ブラウザで取得できるようになっています。
IE
http://msdn.microsoft.com/en-us/library/ie/ff974719%28v=vs.85%29.aspx
Firefox
https://developer.mozilla.org/ja/docs/Mozilla/Preferences/Mozilla_prefer...
Chrome
http://www.lognormal.com/blog/2013/11/11/calculating-first-paint/
この記事のタイトルと調査方法が合致しておらず、発表されている数値もWebサイトの表示速度を表すものではないので、読者に誤解を与える内容になっていると危惧します。
コメントありがとうございます。編集部の安田です。 おっしゃ
コメントありがとうございます。編集部の安田です。
おっしゃるとおり、最も大切なのはユーザー体感速度としての、レンダリング終了までの時間です(Web担でもそのためのページ表示速度計測ブックマークレットなどを提供しています)。
この記事で調査しているのはページHTMLの転送までの時間だけですが、そもそも、この速度が遅いとページ全体の表示速度は速くはならないため(特にサイト内検索結果ページ)、ベースとなる調査の1つとしてご覧いただければと。
※記事タイトルは「レスポンス速度」に関する調査であることを表すものに変更しました。ご指摘ありがとうございます。
最も重要なのはブラウザ上でのレンダリング完了(またはファーストビューの表示完成)の時間であることは事実ですので、今後はそうした調査をこの規模で(各種クライアント環境も考慮して)行っていただけるところがあれば、そちらもぜひまた記事にできればと思います。